早絵月まゆは夢をみる
「よー!ゆみー!」
「こ、こんばんわ……でいいのかな?」
「まぁ、夢の中がお昼でも真夜中だしそれでいいんじゃないかな。」
3人で映画に行った3日後、テストの結果が散々でみっちゃんに補習を受けさせられた夜、また私とゆみは他人の夢の中にいた。
「またきみは……どうすればその能力を制御できるのかな。」
「私が知るわけないでしょ。
さーて!今日もゆみの正義の味方っぷりを堪能しちゃいますよー!」
「が…がんばるね!」
「うんうん!そしてここは……汽車ぽっぽ公園だね。」
「ははは、子どもの頃そう呼んでたなぁ。
みんなそうよんでるんだね。」
正式には違う名前があったはずだけどコンクリートでできた汽車の遊び場があることから子どももその親もみんなそう呼んでいた。
「さて、今回は楽そうだね。
ほら、夢を見てる本人がそこにいるよ。」
男とお腹が大きい女がベンチで楽しそうに話している。
時折、女が自分のお腹をさすって微笑み、男の傍らには赤ちゃんの遊び道具やら洋服やらが入った紙袋がある。
どちらが見ている夢なのか私にはわからないけどこれがその人の想いで願いなんだってわかった。
「………これもナイトメアなの…?」
「言っただろう?ナイトメアは強い想いから産まれるって。別にマイナスな想いだけってわけじゃないよ。ナイトメアは強すぎる想いから産まれるんだ。」
2人の楽しそうな空間からやっぱり黒い霧につつまれたナイトメアが現れた。
「きああああああああ!!!」
相変わらず鳴き声も容姿もおぞましいけど、この想いを叶えるやつって考えると少しいいやつに見えなくもない。
「いいナイトメアもいるんだね!
じゃぁ今回は私たちはなんもしなくてもー
そう言いながら私は男たちからゆみたちのほうに振り返った。
言い終わらないうちに視界の横を何かが通り過ぎて私の視界からゆみが消えた。
ちょっとして背後から何かの悲鳴のような音が聞こえた。
「………………………え…………?」
振り向けなかった。
振り向くのが怖かった。
振り向けないでいる私に目の前にいる癖っ毛の少女が口を開く。
「ナイトメアに良いも悪いもないよ。」
「あ………ああ………。」
ゆみがなんで……。
「なんでこんなこと……。」
「ま、まこと!どうだったかな?
私、正義の味方できてたかな……?」
「……ゆみ……なにいって………」
「いっただろう?
夢が現実になるのはお互いの世界のバランスが崩れるんだよ。遊馬ゆみは1度失敗して経験してるけどあのときだってほんとに危なかったんだ。」
「………あのとき…?」
「覚えてるだろ?
1年前に史上稀に見ない台風がこの町に来たのを。」
覚えている。
私の家はまだ被害は少なかったけど本当にひどい嵐だった。
死人だって何人かでた。
「あれで済んでまだましだよ。
それくらいお互いの世界のバランスは危なかっしいもんなんだよ。こっちの世界だって危なかった。
遊馬ゆみはきみと違ってそれを理解してる。」
ゆみの顔を見るとその顔はなにかをやりきった清々しい顔をしていた。
「奈々波まこと、きみは1人の犠牲より大勢の犠牲を選ぶのかな?」
「…………そんなの……わかんないよ…。」
「………まこと……?」
「…………ゆみ……。」
「…………な、なんでそんな顔するの…?」
「んで、今日はゆみと話せてないと。」
「……うん…。」
昨日のことをまゆに話した。
まゆは相変わらず本を読みながら淡々と話す。
「まことはゆみが間違ってると思う?」
「………わかんない…。」
「でもそうしなかったら私たちが死んでてもおかしくなかったんでしょ?」
「わかってるよ………わかってるけどわかんないの……。」
「……まことは優しいね。
でもまことがそんなに嘆かなくていいんだよ。それは夢なんだから。
本当は本当になるはずのない夢なんだから。」
「………うん、ありがとう……。」
まゆと話して少しだけ気が楽になった。
まゆはすごいなぁ。
「あとゆみと話してきな。
良いか悪いかはともかくゆみは見知らぬ誰かの願いを壊してでも私たちを守ってくれたんだから。」
人の願いを壊すのってどれだけ苦しいことなのかな。
ゆみはずっとその苦しみと戦ってきてたんだ。1人でずっと。
「……うん!ありがと、まゆ!
ゆみとちょっと話してくるね!」
「うん、あと今日は先に帰ってていいよ。
絵の具買って帰りたいから。」
「ばかばか、付き合うに決まってんじゃんか。もうすぐだもんね、コンクール。」
「……うん、ありがとう。」
ゆみとはその後思っていたより普通に話せたと思う。
でもゆみは1回も私の顔を見なかった。
私にはなにが正解なのかわかんなかった。
でもきっとゆみのとった行動が正しいんだと思う。
これで私たちがぎくしゃくするのはなんか違うんだよ。
数日がたって私たちはまた夢を見た。
「こんばんわ!ゆみ!」
「こ…こんば…んは、まこと。」
「さあて!今日も正義の味方がんばろうね!ゆみ!」
「…う…うん!がんばろうね!まこと!」
そう言いながら久しぶりに私の目を見て言ってくれた。
夢の中だけど、ただそれだけのことだけど私は嬉しかった。
「きみは見ているだけなんだけどね、奈々波まこと。」
「うにー!!相変わらずいちいちうるさいなー、不思議少女は!」
「ほんとのことじゃないか。
まぁ今回も楽そうだね。夢を見てる本人はこの狭い敷地にいるみたいだし。」
「…ここは……美術館……?」
私たちの町にはそこまで大きくないけど美術館がある。
もうすぐ学生限定のコンクールがある場所だ。
悪い予感がした。
「な…中入ってみよっか!!」
まさか……いやだ……そんなわけない……そんなわけない!
「………ま……まゆ………?」
「……まこと?」
入り口に入ってすぐまゆが絵の前に立っていた。
その絵の前にコンクール入賞作品って書いてある立て札がたっていた。
まゆの名前と一緒に。
「どうやら、彼女が今回の夢を見ている本人みたいだね。」
「……まゆ!!なんでよ!!なんでここにいるんだよ!!!」
まゆに近づいて両肩を揺さぶりながら私はまゆを全く意味のない言葉で問い詰める。
「なんで!?なんでよ!!?」
「まこと!いたいよ…何言ってるのかわからないよ……。」
「なんで!!なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!!!
なんでだよ!!!」
わかってる。わかってるよ。
まことがそれだけこのコンクールを頑張ってきたんだ。
まわりからしたら数ある中のコンクールのひとつなのかもしれないけどまことはこのコンクールにかけてきたんだ。
「……まこと……?」
「………なんでよ……。」
「きあああああぁあぁあああ!!!!」
私の涙が床に落ちるのと同じにまゆの絵画から黒い霧につつまれたナイトメアがあらわれた。
私の後ろで何かが光をはなちはじめる。
「ゆみ!!待って!!これだけは消さないで!!」
ゆみが持っている杖を構える。
「で…でも消さなきゃ大変なことになるから……。」
「こ…今回は案外大丈夫かもしれないよ!?
あ!もしかしたら他になんかいい方法があるかも!!ゆみだってこんなのつらいでしょ!?これからのためにも何か考えようよ!
だから待って!!お願い!!まゆの想いを消さないで!!!」
「………ごめん…まこと……ゆみ……。」
「やだ!!!やだ!やだ!!やだ!!
やめて!!!ゆみ!!!やめて!!」
数日後、小さな美術館で学生限定のコンクールがあった。
扉を開けると夢と同じようにまゆが絵の前に立っていた。
でもその絵は夢と違ってまゆの絵じゃない。