大丈夫だよ
テストが終わり、明日は日曜日ということで私は何の不安もなく眠りについたはずだ。
気づいたら知らないビルの屋上にいた。
そこから見える風景には見覚えがあるから私が住んでいる町ではあるみたい。
「んん……これはまた夢かな?」
「うん…そうだよ、また人の夢の中だよ。」
「あ!ゆみ!……と不思議少女!!」
不思議少女はゆみの隣をふわふわ浮きながら自分の癖っ毛をいじって遊んでいる。
「まったく……きみのその不条理な能力はどうにかならないのかな、奈々波まこと。」
「知らないよーだ!無意識だもん!
それに夢の中で意識がはっきりしてるのはこれで2回目だもん!」
「こ、この前がはじめてなんだね…。
なんで急に………。」
「おそらくきみと繋がりを持ったからだろうね、遊馬ゆみ。
ぼくがきみを呼びよせて、それに乗じて奈々波まことがその能力で接触してくるんだろうね。」
「……繋がり?」
「そう、繋がりだよ。
きみたちが思っているより人と人との繋がりは強いんだよ。」
「またこの不思議生物は難しいことを…。」
「まぁ、いるものはしょうがない。
奈々波まことが夢の世界に影響を及ぼす前にナイトメアを見つけて終わらせよう。」
「よーし!!今日は私も活躍しちゃうんだからね!!で、どこにいるのさ?」
「……疲れるやつだね、きみは。」
「不思議少女はいつも一言多いよー!」
「ま、まこと…落ち着いて…。」
「ナイトメアは夢を現実にする。
人の想いそのものさ。きみも見ただろ?
土浦うららの死体からナイトメアが出てきたのを。あれが梶直也の想いそのものだよ。」
「……んにゃ?よくわかんないけど夢を見てる人が何を想っているのかわかればナイトメアも簡単に見つけれるってことだね。」
「まぁ、そういうことだね。
きみはどうやってわかるかって聞くはずだから言っとくけど」
「うぐっ……。」
やなやつ。
「夢には必ず夢を見てる本人がどこかにいるはずなんだ。どんな夢でも例外なくね。
直接本人に聞けばいいわけだよ。
ぼくには大体どこにいるのかわかるからね。」
「便利なやつなんだね。不思議少女は。」
「さて、きみと絡んでる時間ももったいないね。ナイトメアが先に事をはじめたらまずいからね。」
「うにー!!ムカつくやつだなー!!」
「急ごうか、遊馬ゆみ。」
「う、うん!」
そう言うとゆみは不思議少女の頭の上に左手を置いた。
「ぎゃん!まぶしい!」
するとゆみの全身が光につつまれたかと思ったら魔法使いみたいな格好になった。
それこそアニメにでてくる魔法少女みたいな感じ。
「うわー!なにこれなにこれ!!」
「遊馬ゆみの夢の力を引き出したんだよ。
前にも話したじゃないか。」
「な…なんか恥ずかしいな……。」
「なんでよー、ちょおかわいいよ、ゆみ!」
「あ……ありがと…。」
「いいなぁ…ねぇ、不思議少女!私も変身したい!」
「冗談じゃないよ。きみみたいなイレギュラーの力を引き出したらどうなるかわかったもんじゃない。」
「んはー!私は夢の中でも凡人なのかー!!」
「さぁ、いこうか、遊馬ゆみ。
時間がない。」
不思議少女はもともとだけどゆみも宙をふわふわ浮きはじめた。
あれ?私置いてかれちゃう?
「まこと、手。」
ゆみの手を掴むと私の身体も宙に浮いた。
「わわ!!すごい!!なんでもありだね!」
「ははは、夢の中だからね。
手離しちゃだめだよ?」
「うん!!」
あれ?私、足手まとい?
気にしない気にしない!
「夢を見てるのはこの会社のOLみたいだね。このビルの下の方にいるみたいだ。」
このビルはどっかの会社だったんだ。
そういえばずっとこの町に住んでるけどオフィス街のほうにはきたことなかったなぁ。
そんなこと考えていたら下の方で何かが爆発する音が聞こえた。
「え?!なになに?!」
「どうやら本人よりナイトメアが先に見つかりそうだね。いくよ、遊馬ゆみ。」
「う…うん!」
2人して爆発した場所目掛けて直滑降していく。
「うひゃー!!」
「大丈夫?!まこと!?」
「大丈夫大丈夫!!夢だもん!」
夢でもこわい。
私はジェットコースターとかが苦手なのだ。
「そんなやつの心配してるひまないよ。
ほら、いたよ!遊馬ゆみ!」
「うにー!!相変わらずムカつくやつだな!!」
不思議少女が指をさすほうを見ると前とは姿は違うけど同じように黒い霧につつまれた何かがいた。
「あとは任せたよ。遊馬ゆみ。」
「…う、うん!!」
「………ゆみ……。」
手を握っていたから、ゆみの顔が見えたからわかった。
ゆみは怖いんだ。
そうだよね。そりゃ怖いよね。
わけわかんないもんね。
私は震えているゆみの手を強く握った。
「ゆみ!!大丈夫だよ!!私がいるよ!!」
「……まこと……。」
「大丈夫!!」
「………うん!!!」
「………あにゃ?」
そう頷くと同時にゆみは私を空高く放り投げた。
「なんでーーーーー!?!」
そりゃ死なないんだろうけどさ。
そりゃ私がいたらじゃまなんだろうけどさ。
やっぱり怖いわけだよ、あすまゆみさん。
「ぎゃーーーーー!!!!!」
地面に叩きつけられる直前にゆみにキャッチされた。
周りを見渡してももう黒い霧につつまれた何かはいなかった。
あの一瞬でゆみが消滅させたんだ。
「………たはは…お姫様だっこなんてはじめてされたよ。惚れちゃいそう。」
ゆみの顔には不安がなくなっていた。
手も震えてない。
「あの……まこと……あ…あり……。」
「ゆみはすごいね。
ほんとに正義の味方だ。」
精一杯の笑顔をゆみに向ける。
ゆみは今にも泣きそうな顔になる。
「ありがとう……まこと……。」
私にはなにもできないけど
きっと足手まといになるだけだけど
少しでもゆみの辛いのをもらえたらいいな。
ずっと1人で戦ってきたゆみの力になれたらいいな。
ゆみの腕の中で意識が朦朧としてきたと思ったら気づいたら自分のベッドの上にいた。
「…………やば……まゆとゆみと映画にいくんだった。」
時計を見ると待ち合わせ時間を過ぎている。
一緒に夢みてたゆみもきっと遅刻だろう。
「あはは……まゆ怒るだろうなぁ。」
それでも私は笑いが止まらなかったりする。
「んで、2人して遅刻したと。」
「あははは、そうなんだ。」
「ご…ごめんね……まゆ。」
「………ゆみは許す。まことはタコスおごりね。」
「ちょ……!なんでさー!!」
「日頃の行いと現状の態度だよ。まったく。」
私はまゆがどういうやつか知っている。
ここについたときまゆはずっと頭をかいていた。
私が起きたとき何十件もまゆから着信があった。
お母さんから1回まゆが迎えにきたことを聞いた。
寝てると聞いてお母さんが起こそうとしたのを止めて行ってしまったのを聞いた。
まゆはそういうやつ。
「ありがとね、まゆ!」
「お前はとりあえずごめんなさい言いなよ。」
「あはは!かわいいやつめ~!」
「うざい!ゆみ、こいつうざいよ!」
「ははは、私からもだよ。
ありがとう、まゆ。」
「………まったく……2人して心配かけすぎだっての。」
「わかる?ゆみ。
これがツンデレだよ!萌えなんだよー!」
「うん、わかる。まゆはかわいいね。」
「………ばかばっかだ……。」
そう言いながら映画館のほうに先に歩きだした。
私たちもそれを追う。
まゆの背中を見ててやっぱり私は嬉しくて口元が緩んでしまう。