風船 わすれもの
「風船」
青い風船が
風につられて登ってゆく
私の手から離れて
その時私は
原っぱに居た
となりに
私より背の高い日向葵が咲いて
蝉がうるさかった
麦藁帽子をかぶった私は
空を見上げた
かざした手の間の
青い風船は
もう小さくなって
空の中
どこへでも飛びたかった
その頃
雲の上が楽しそうだった
空と一緒の 四才の夏
「わすれもの」
自分が自分でなくなる時
子供たちのはしゃぐ声が聞こえます
霞がかった 春のまどろみのように
君が見えます
消え入りそうな黄昏の野原に
過去へと向かう 感情とともに
何かを置き忘れてきたのです
幼い頃親しかった
おそらくは たわいのない何かを
蕭蕭と降る雨の音のように
誰も訪れることのない
ひっそりとした墓のように