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現代病

作者: 広幡桐樹

ここは東京都にある多賀精神病院。診察室には院長の多賀豊が座っている。


「お次の方、どうぞー」ナースの声が響く。


見た目はまだ30前半ぐらいの男性患者だ。


「今日はどういったご用件で?」多賀のしわがれた声が尋ねる。

「仕事ができないんです。」患者が答える。

「と、言いますと?」

「実は先週、風邪を拗らせてしまって、3日間ほど会社を休んでしまいまして。」

「今は働いておられるのですか」

「そのことなんですが、一昨日まで何とか働いていたのですけれど、やはり休んでしまったことがどうにも気に食わなくて・・・」

「いえいえ、誰でも人間なんですから3日ぐらい休むことだってありますよ。何もそこまで心配しなくても、それだけでクビにはなりませんし、会社も潰れないですよ」

「そういうことじゃなくてですね・・・」

じゃあ一体どういう事なんだ。

「何というかまるで今まで積み重ねてきたものが一気に崩れてしまったような気持ちになってしまって・・・」

「つまり何が何でも皆勤を貫き通したかった、と?」

「分かりやすく言えばそうなります。一度残業をしたいと上司に言ってみたのですが、残業代はいらないといっても聞きつけてもらえなくて・・・」

「まあ最近は労働災害やらと厳しい世の中ですから・・・それで今はどうされているのですか?」

「自宅にずっといます。もう働く気が起きません。」

なるほど。働く意欲が裏目に出てしまったのか。

自分がまだ医者の駆け出しだった頃を思い出してみる。慣れない環境で苦労もしたが、自分でも仕事に対しては熱心だったと思う。ただ、何らかの理由で仕事ができない時にそこに込み上げてくるのは、倦怠感などではなく申し訳なさだった。この若者は果たして仕事熱心なのか自己中心的なのか。


「とりあえず睡眠剤と精神安定剤を出しておきます。しばらく経ってもそのままの状態でしたらカウンセリングをしましょう。そのときはまたいらしてください。」

「分かりました。ありがとうございます。」

「お大事に」


「お次の方、どうぞー」


先ほどの患者と年齢はそこまで変わらない男性患者だ。


「今日はどういったご用件で?」かすれ気味の声が尋ねる。

「仕事ができなくなっちゃいまして。」

何と。この患者も先ほどと同じ症状だろうか。

「ええと、どういうわけで?」

「正確に言うと仕事はできるんですが、残業のし過ぎで残業時にしか仕事の能率が上がらなくなりまして・・・」



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