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 ユグドラシル自治領最南の町「探求の庭」の大図書館の最奥は、静寂と本の香りに包まれていた。壁一面に並べられた本棚は天井までの高さがあり、閲覧を禁止されている本が隙間なく納められている。


「こんなに禁書が存在しているとはな」


 エリックは手近な本を手に取り、表紙に目を走らせる。「精霊塔の建築方」というタイトルをみるに、辺りの気候を制御したという古の技術が書かれた本のようだ。ユグドラシル自治領に1本、塔の遺跡が残されていたのを思い出す。そこはすでに機能を失っているが、北方には暴走状態で未だ吹雪をまき散らす塔もあるらしい。


「目当ての本はどの辺にあるのかな?」


「そうだな--」


 本を戻し、エリックは奥に進む。彼を難なくここまで連れてきたルザルファスは、物珍しそうに辺りを見回している。

 エリックは部屋の一角で足を止めた。本棚には、数々の禁呪がタイトルに書かれた本が並んでいる。融合と再構成による人体再生、猛毒の霧を広範囲に発生させるもの、強制的な腐敗の進行など、その種類は様々だ。その中から、「帰還の書」の写本と死者蘇生について書かれた本、魔神召喚について書かれた本を取り、エリックはルザルファスを呼んだ。


「この辺りに、情報があると思う」


「わかった--読めそうなものは、読んでみるよ」


 そう言い、ルザルファスは魔神召喚について汎用語で書かれた本を開く。

 「帰還の書」は国がすでに滅んで実用性のないヴァンダニア語で書かれているため、歴史を研究しているか、言語習得が趣味な者でもないと読めないだろう。後者であるエリックは「帰還の書」の写本を片手に別の本棚に向かうと、1冊抜き出し積んだ本の上に追加する。

 しばらく2人は無言のまま本を読み、紙をめくる音だけが響く。やがてエリックが最後の1冊を読み終わり、本を置いた。


「……「帰還の書」は、それ自体が術の発動・維持に必要なんだな。恐らく今もダンドルグが抱えているはずだ」


「なるほど--本を破壊すれば「帰還の書」で蘇った者は元の死者に戻るのか。破壊していいか、後で確認してくるよ」


 大きな収穫だ。影の狼についても、生者の力を奪って蓄えるという本の能力で、限りがあるということが分かった。魔神については死者蘇生と関係が無く、手駒としようとしたのではないか、という結論に到った。


「最後に読んでた本は?」


「……ミストリル族狩りについて書かれていた。--優れた魔法触媒としてよく、活用されていたようだ。……「帰還の書」の革表紙、とかにな」


 "護人"と呼ばれる護衛を側に置くという彼女たちの風習も、そこから生まれたのだろうとエリックは推測する。義理の兄だと紹介されたヴァインとフェリルが、ガデスの護人のようだ。彼女らの歴史を思えば、ルザルファスに対するヴァインの警戒ぶりも当然のことだろう。


「人の形をした素材扱いか。まあ何々狩り、なんてやる連中の本当の目的なんて、たかが知れているな」


 冷めた口調で、そうルザルファスが言う。10年程前に2人の故郷で行われた魔族狩りでは、一部の国民と共に、騎士団の人間3割ほどが背徳者として処分された。聞いた噂では、偶然にも全員が、時の騎士団長と不仲だったらしい。エリック自身、父が一度だけ、母だけに当時の騎士団長について苦言を漏らしたことがあるのを知っている。

 もっとも、エリックは父の死後早々に母と共に故郷を離れたため、また、興味もなかったため、噂の真偽は確かめておらず、故郷の現状はわからない。


「--とにかく、必要な情報は手に入った。次は奴の居場所を見当付けねばな」


 エリックが監禁されていた館から逃亡したのは夜だったため、明確な場所は分からなかった。方角を頼りに、場所を割り出す必要がある。


「そうだね。そろそろ出る? 行きたいとこがあるなら、連れていくよ」


 グランアルシア自治領に向かう前に、とルザルファスは言う。本の破壊の可否を確認しに行くらしい。「探求の庭」からは普通に歩くと10日程掛かるのだが、彼ならばもっと早く行き来できるだろう。

 エリックは場所を間違えぬよう注意深く本を元の場所に戻すと、ルザルファスに向き直った。


「では、一度俺の自室に。そこから、タルタニに。--取り越し苦労だとは思うが、人目に付かないよう移動したい」


 ダンドルグが学者になれたのは経歴を偽ったからだろうが、万が一協力者が内部にいた場合への対策だ。

 ルザルファスは頷くとエリックの腕を掴み、虚空に飛び込んだ。



(3に続く)

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