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Wonder Wander  作者: 黛 光太
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〆最終話 血の粛清

 世界がまたたいたその瞬間。

 たった一度のまばたきの間に咄嗟にマウスはポケットにしのばせていたジッポ用の油瓶をピエロ目掛けて投げつけた。


「フェザ、離れろ」


 その一瞬の隙に、手から解放されたフェザリオがドナテロから離れたのを確認すると、マウスは火を灯したジッポをその手から離す。

 小さな光が薄暗い冷凍室で放物線を描いた次の瞬間、溢れ出す光。

 薄暗い閉ざされた空間を照らし上げる程の強い輝き。


「ぐっぁぁぁ!」


 視界の中で、悲鳴を上げながら炎上するピエロ。

 冷たい空気の中で真っ白な蒸気を上げながら、そいつは転げ回っていた。


「マウス、お前……」

 

 ピエロの手から解放されたフェザリオは驚きを隠せない様子だった。


「もう……誰も殺させない」


 真白な蒸気を撒き散らしながら、炎は静かに収縮し、そして消えていく。

 二人は地面につくばっているドナテロににじり寄る。

 身に付けていた衣装は灰色に焦げ、その身体はまだ僅かに蒸気を発しながら微動だにしなくなっていた。


「……潮時か」


 地に伏せていたドナテロが呟いた。

 身体を包んでいた火は消えていたが、その全身には酷い火傷を負っているようだった。


「まだ生きてたのか」


 そう言葉を吐き掛けるフェザリオ。

 ゆらりと立ち上がるドナテロ。けれどもはやその身体では何も出来ないように見えた。


「お前達はやはり光だ」


 そのドナテロの言葉にマウスは思わず叫んだ。


「ふざけるな!」


 僕が光だって! あの言葉がどんなに嬉しかったか!


 あの言葉にどれだけ救われたか


 僕にとってあの言葉こそ……光だった。


「気づいていたさ。自分の狂気にはな」


 ドナテロは静かに語り始めた。


「だが、止められなかった」


 そう語るドナテロの表情はさっきまでの殺人鬼の顔とはうって変わっていた。


「僕達をずっと騙してたのか」


 マウスの言葉にドナテロは動揺一つ見せず言った。


「人間には表と裏がある。お前達が見ていた俺もまた真実さ」


 表と裏だって。いつだって真実は一つしかない。

 あるのは残酷な真実だけじゃないか!


「言い逃れようってのか」


 フェザリオの言葉にドナテロはふっと微笑した。


「言い逃れる気はない。ただ最後にお前達に一つだけ伝えておきたくてな」

「最後に?」


 ドナテロは微笑を崩さぬまま続けた。


「目に見えるものだけが真実とは限らない」

「この場にきて何言ってるんだ」


 フェザリオが詰め寄ろうとしたその時、ドナテロは落ちていた鉈包丁を拾い翳した。


「お前!」


 ドナテロは逃げる素振りを見せなかった。


「悪魔はな、すぐ傍に居るんだ」

「だから、何言ってるんだお前!」


 フェザリオの問いかけにドナテロは答えなかった。


「お前達もこの世界に存在する限りいずれ気づくさ。最後にもう一度言おう」


 そう言ってドナテロは刃を首元にあてた。


「お前達は光だ」


 それがドナテロの最後の言葉になった。

 紅い血飛沫が上がる。


 二人の目に映った最後のあの表情。

 あの優しい表情は間違いなく、彼らが知るドナテロそのものだった。



 深夜、ギルドから派遣された調査団がドナテロの酒場の調査を始めた。

 二人は重要証拠人として、明け方までギルドで拘束される事になった。


 何を聞かれたのかは覚えていない。

 全ては夢現ゆめうつつ


 二人は自分自身をこの世界に保つ事だけで精一杯だった。

 明け方、質問という名の尋問から釈放された時、二人はこの事件解決の褒賞金として百ペイン硬貨が百枚入った小さなガラスケースを持たされた。

 これだけあれば数ヶ月は暮らせる大金だった。

 だが二人にとって、その代償はあまりにも大き過ぎて。


――お前達は光だ――


 ドナテロが残したあの優しい笑みをいつまでも思い返していた。



 ■あとがき(2009/1/20)


 本作品をご覧頂きありがとうございます。

 この作品を手掛けたのは今から一年と少し遡ります。

 その時はダークファンタジーという名目で、長編連載作品として公開させて頂いていました。この頃の私は、ホラー映画やスプラッター映画をよく好んで、自然描く内容も陰鬱で暗い色調の話が多い時期でした。

 ですが、ある時期を境に急に本作のシナリオが自分の中で書けなくなりました。

 プロットも適当に行き当たりばったりに描いていたのも勿論理由の一つですが、それ以前にこうした色調に対して、酷い嫌悪感を覚えるようなったんです。

 ホラー映画やスプラッター映画を全く見れなくなったのもその頃からです。

 つい先日まで、自分が描いたANTIQUE(旧タイトル)も全く振り返る事が出来なかったのですが、本当にここ最近になって自分の作品として受け入れられるようになりました。それが今回改稿に到った経緯です。


 非常に勝手ではありますが今回の改稿・修正をもちまして本作品はここで完結とさせて頂きます。

 以前ANTIQUEをご覧頂いていた読者の皆様、本当にありがとうございました。以前執筆分の内容についてもまたいつかシナリオとしてまとめて公開できたらと思っております。

 また、改稿後の本作品をご覧頂いた読者の皆様、本当にありがとうございました。

 宜しければまた他の作品でお会い出来れば大変嬉しく思います。それではまた〆

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