3話:ストク
「これは………」
ドクドクと血を流しながら倒れている巨大猪を見ながら呟くオボロ。
自分が背中を向けている間に死んだ巨大猪。誰が見ても分かるように巨大猪はオボロが倒した。
普通の人間は自分が何をしたのか分からず混乱するであろうが―――――――
「血が黒い!?」
彼はゆるかった。
ざわ……
辺りに強い風が吹き周りの木々が大きく揺れる。
「うおっ…」
数枚の羽根が風に乗って頭上を通り過ぎる。すぐに風は収まりオボロが乱れた髪を直す。
「ん…?」
いつの間にか巨大猪の傍にオボロと同じくらいの歳の少年が立っていた。
少年は山伏のような服を着てはいるが、髪は金色という不思議な見た目をしていた。
「なぁ、この猪…兄ちゃんがやったのか?」
どこか近寄りがたい雰囲気を放つ金髪少年が睨みながらオボロに尋ねる。
「んー………多分?」
多分、という間の抜けた答えに少年は自分の気が緩むのを感じた。
「ハッ、なんだよそれ」
「だって気が付いたら死んでたんだし」
オボロは真面目に答える。それもそのはず、気が付いたら死んでいたというのは本当の話だから。
「気が付いたら…って兄ちゃんの能力でやったんじゃねーのか?」
「?」
首を傾げるオボロ。彼はどこまでもマイペースである。
「ハハッ、兄ちゃん面白ぇな。俺の名前はストクだ、よろしく」
「ん、僕はオボロ。よろしく」
「なるほど、オボロはその化け猫に連れられて別の世界からやってきたって事か…」
オボロは金髪少年、ストクに自分の事情を説明する。
「うん、でも別の世界から来たとか言われて信じるの?」
「にわかには信じがたいが…お前は大真面目な顔をしてるし、服装が珍しいからな。信じてもいいだろ」
オボロの服は高校のブレザー、どうやらこの世界にこういう服はあまりないようだ。
「そっか、ありがとね」
「しっかし丘の上に人間一人で放置するとはその化け猫もなかなか酷い事するもんだな。人間のする事じゃねえ」
まあ化け猫だし、という突っ込みを心の奥に押し込むオボロ。
「そういうストクだって一人じゃんか」
少なくとも目に見える範囲にはストク以外の人は見えない。
「あ、いや…俺はまぁ、人間じゃないからな」
「?妖怪なの?」
「そんなところだ」
言葉を濁すストクに疑問を覚えたオボロだが、本人が言おうとしないため流すことにした。
「それより、お前これからどうするつもりだ?」
「うーん…どうしよ。僕この世界の事何も分からないから、行動の起こしようがねーんよ」
「そうか…それならこの丘のふもとに小さな村があるんだ。とりあえずそこに向かってみようぜ」
ストクの提案に賛成し村に向かうオボロ。
しかし村に向かった事を全力で後悔するハメになる事を二人はまだ知らなかった…。