2話:最高じゃんか
オボロ達はおそらくここら一帯で最も高いであろう丘の上に立っていた。
空には謎の生物が飛んでいて、丘のふもと辺りを見ると猪を5倍ぐらいにしたものがのそのそと歩いている。
「なー、この世界にはあんなのが普通にいんのか?」
「魔物の事ね。ええ、いるわよ」
「魔物か…。ホントにゲームの中みたいだ」
「ちなみにこの世界の生き物は皆何かしらの能力を使えるわ」
「マジかよ!魔法みたいなもんか」
「ついでに妖怪もいるわ。妖怪は基本人型よ」
次々と誇らしげに説明する少女。
「君ももしかして妖怪?」
「ええ!私は化け猫よ!よろしくね!」
猫耳をピコピコ動かしながら少女は言う。
「よろしく…って、化け猫という事は神社にいた猫は君?」
「あら!そこに気付くとはさすがじゃない!そうよ、私は君をこの世界に招待するために向こうの世界に行ったの」
「招待?」
不思議そうな顔をしながらオボロが尋ねる。
「この世界から向こうの世界が覗く方法があってね。暇だから覗いてたら君がいてね。しかも向こうの世界に退屈してるときた!これは4もう招待するしかないって思ってね!」
「なるほど、そういう理由で呼び出されたのか!」
オボロが腕組みをしながら頷く。はたから見るとかなりゆるい会話である。
「ところで君、向こうの世界に帰りたいって気持ちは?」
「帰りたい?そんな気持ち無いよ。豊かな自然、変に生き物、加えて魔法もあるときた。最高じゃんか」
オボロが即答すると少女は驚いた顔をする。
「ふーん、この世界に連れてこられた人達は大抵みんな帰りたがるのにね」
自分以外にも連れてこられた人がいる、という事に驚いたオボロだが口には出さなかった。少女が話を続ける。
「自分から望んだ事なのにどうして帰りたがるのかしらね、向こうの人の考えは分からないわ」
折角連れて来てあげたのに…、口を尖らせながら愚痴るように少女が言う。
「ま、君が元の世界に帰ることを望んでいないのは分かったわ!存分にこの世界を楽しんでね!」
「待った、楽しむって何をしたらいいんだよ」
「知らないわよそんな事!!」
「ええ!?」
いきなり怒鳴る少女に戸惑うオボロ。
「ここは向こうの世界でいうファンタジーの世界よ?何か適当に能力でも何でも使って魔物でも倒していけばいいじゃない!!」
「あれを?無茶言ってんじゃないよ!」
指をさされ、あれと言われたもの(巨大猪)は不機嫌そうにオボロを睨む。
(あれ、なんかやばい?)
青ざめるオボロを見て溜息をつきながら少女が言う
「はぁ……この世界にいるという事は君も何かしらの能力を使えるはずよ」
「え?」
「じゃ、頑張ってね!」
そう言うと少女は白い光に包まれどこかへ消えた。
「うおっ!?」
目の前で起きた出来事にオボロが目を丸くしていると――――――
「ブモォォォォォォ!!」
巨大猪がオボロを目掛け突進してくる。
「やっべ!」
(うわー、死んだなー。僕まだこの世界で何もしてないのになー)
体を丸め巨大猪に背を向けるオボロ。
(あーあ…死にたくねぇなー……!)
オボロがそう思った瞬間――――
ザシュッ!!
オボロが背中に違和感を感じるとともに、何かを突き刺すような音が辺りに響く。
しばらく丸まったままでいたオボロだが、いつまでたっても痛みが感じられない事を不審に思い振り向く。
「……!何だ?」
そこには黒い血を流し巨大猪が倒れていた。