平日の昼(メルヴェーユ視点)
メルヴェーユとその妻アリューデは王宮内にある別館へと向かっていた。
ここには、メルヴェーユの父である前王が療養している。
別館の中は香油や薬草の香りが混ざりあった重苦しい空気が広がっていた。
前王はベッドに横たわっている。傍らには若い愛人が座っていて、前王の手を丁寧に擦っていた。
愛人は王と王妃が入室したというのに立ち上がることすらしない。
メルヴェーユとアリューデは二人に丁寧に挨拶をすると、前王は落ち窪んだ眼窩をギロリと向けて、若き王に言った。
「なぜいまだ兵を挙げない! あの土地は我々のものだぞ!」
隣国と土地を長い間、争っていたのだが、魔障が発生し、魔物の巣となったのだ。
「父上。あの土地はもうないも同然です」
隣国は今なら喜んで、その土地を手放すだろうが、それは同時に大量の魔物を引き受けるという意味でもある。
鰯の群れのように大量に発生する魔物をいなすためには、今はその隣国と手を取り合うしかない。
だが、前王にはいくら説明しても自身の目で見ていないため納得がいかないらしく、
「魔物など蹴散らせばいいだろう! やはりお前が王ではこの国の未来はない!」
よだれを飛ばしながら、弱い声で叫んだ。
さらに、彼は言葉を続ける。
「いつまでワシをこの狭い館に閉じこめるつもりだ! 城へ戻る! ワシが政治を行う!」
起き上がり、ベッドからでようとしたが、体が揺れる。
メルヴェーユは静かに、
「父上。今日はご報告があって参りました」
「報告? 隣国の王の首でも取ったか?」
「いいえ。我が妻アリューデが懐妊したのです。これでこの国も安泰です」
アリューデが前王に向かって、再度、頭を下げた。
彼女は隣国の王女で、講和の証としてメルヴェーユに降嫁してきたのだ。
前王は叫んだ。
「認めんぞ! 隣国の王女の子どもが次代の王になることを!」
疲れ切ったのかベッドに横たわった。
メルヴェーユとアリューデは部屋を後にした。
帰り、アリューデは不安げに、
「怒っていらしたわね……お義父様」
「気にするな。父はもう何もできやしない。君は自分と子どものことだけ考えていればいい」
「ありがとうございます。陛下」
そう言って、若い王妃は安心したように微笑んだ。
メルヴェーユは遠くをぼんやりと見ていた。




