お城(レイエ視点)
俺――メルヴェーユは城でいつも通り執務をし、城でいつも通り執務をし、会議に出席し、妻と濃密な時間を過ごす。
全部、メルヴェーユに化けた俺の仕事だ。
この王家に契約という名の鎖をはめられた時から、数百年仕えてきた。
戦争に駆り出されたこともある。
要人を暗殺したこともある。
人間どもの言いなりとして様々な悪行をしてきたが、今回が初めてなんだよ。
船旅に行くから、影武者してくれって言われたの。
メルヴェーユ。
お前だけだよ、マジで。
なんちゃら公爵領のなんちゃらとか税制が、通商がとか言われてもわかんねーよ。
なんだよ、法律って。
税金ってなんだよ。
消費税とタバコ税以外にもあるのかよ。
わかんねー。
王妃の母国から謝罪の使者っていうのが来るって言うしよ。
使者っていうのが、王妃の兄だとよ。
しかも、巷で流行中の歌のモデルがメリッサなんだとさ。
仮面の召使と王様の恋物語の歌ねー。子守語りの間違いじゃねーのかよ。
王妃の兄チシャは意気揚々とやって来て、俺に形ばかりの謝罪をし、早速、メリッサとの面会を求めてきた。
「メリッサは現在、船旅に行っているため、城にはいない」
俺はつつがなく答える。
メリッサ以外にも本物の王もいないんだけどな。
だが、俺の演技が完璧すぎて、誰も気付きゃしねー。
どうよ。これが千歳超えの実力よ。
俺が部屋に戻ると、チシャがやって来た。
「実は城内にメリッサを隠しているんじゃないかと思いまして。そこの小部屋とか」
そう言って、チシャは無断でメリッサの部屋の扉を開けた。
そこにいたのは、テレマスヴォルグア。通称おちん◯さんだった。
なんで?
「え?」
チシャはそう言って、静かに扉を締めた。
それから、再び何かを確認するようにもう一度開けてみた。
そこにはもう何もいなかった。
チシャが、
「今の何だったんですか?」
「……俺には何も……見えなかった」
見なかった。
絶対見てない。
俺は何も見てない。
俺にはもう訳がわかんねーよ。
「……ですよね」
そう言ってもう一度扉を締めた。




