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メリッサちゃんは王様のかわいい召使  作者: 桜雨実世


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山歩き(メルヴェーユ視点)

 ここ数日間、いつも以上に眠れない日々が続いていて、体が重だるく、頭もぼんやりとする時間が多く、時々、頭痛もする。


 だが、メルヴェーユはそんな状態でありながら、妻や家臣たちと共に山を登っていた。

 毎年、この一団にはメリッサも加わり、彼の隣を歩いていた。今年からは彼女はいなくなり、妻が自分の隣を歩いている。


(メリッサのルンルンがあるのとないのとだとこんなにも体に違いがあるのか。命が消耗しているようなレベルで、体がしんどい)


 メルヴェーユはメリッサの歌に不思議な力があるのを幼い頃から知っていた。だから、歌声が聞きたい時以外にも体がしんどい時にも歌わせていた。


 メリッサの歌にはルンルン以外に歌詞はない。

 歌を教えていないからだ。


 大きな岩や木を通り過ぎる度に、毎年、これらを使って、メリッサとかくれんぼをしていたのが懐かしい。

 メリッサは二十歳を超えているはずだが、その精神年齢は自分に仕えだした二、三年後から成長していない。

 だから、いまだにかくれんぼやおままごとが好きだ。


(メリッサは大丈夫だろうか……。レイエに預けたが……)


 山の風景はのどかで静かで至って平和で、隣で妻のアリューデが明るい声で自分に色々と話しかけてくる。

 まるで小鳥のようだ。


 風も爽やかで、普通なら気分も明るくなるだろう。

 だが、メルヴェーユは風が頬を撫で、歩を進める毎に心にトゲが刺さったような痛みが走る。


 やや険しい道に出た。

 気をつけて歩かないと、うっかり落ちてしまいそうだ。


 メルヴェーユは眼下の険しい道を見下げながら子どもの頃のことを思い出していた。


 幼い頃、この山登りを愛したのは彼の母親だった。

 母は幼いメルヴェーユや家臣、侍女たちを引き連れて、毎年山へ登っていた。


 彼女の最後の山登りとなった年、メルヴェーユは九歳だった。

 弟は教会で聖人として神官教育を受け、王妃とはいえ面会も制限される日々。


 弟を世界で誰よりも愛する母は弟をなんとか教会から解放しようといつも思案をしていた。


 メルヴェーユは内心で、

(諦めが悪いババアだな)

 といつも思っていた。


 山登り中も侍女や家臣たちと弟を教会から解放する相談をしていた。

 大司教の前で光り輝いた神の祝福を持つ弟を教会から平和的に解放するのは至難を極めているようだった。


 メルヴェーユは険しい道に出たところで、無邪気な子供らしさを発揮し、母の手を引いた。


「母上!あそこ!見てください!」


 落ちそうなギリギリのところまで手を引き、適当な場所を指さした。


「何よ、メルヴェーユ!何かあるの?」


 母は表向きはメルヴェーユに優しいから、家臣たちの手前、その手を振りほどくことなく従った。


 メルヴェーユは家臣たちと母が離れた一瞬、風の魔法で母親の足元をぐらつかせた。


 バランスを失った彼女は悲鳴を上げ、道を滑り落ちた。


 メルヴェーユは思わず、笑みが零れそうになった。だが、我慢する必要はなくなった。


 咄嗟に、飛び出して、母の足を掴んだのはメリッサである。


「メリッサ!」メルヴェーユは叫んだ。


 その時、メルヴェーユはメリッサの背中がふわりと膨らんで、一瞬だけ彼女の周囲が小さくキラリと光ったのが見えた。


 母は落ちることなく、事なきを得た。


 起き上がった母はメリッサを嫌悪と侮蔑の表情で見やると、思いっきり足蹴にした。

「穢らわしい存在がわたくしに触れるなど許されると思って!」


 それから、踏みにじった。


 家臣たちが駆けつけると、母は、

「その汚い小娘よりもどうして早くに助けられなかったのよ!」


 命の恩人でありながら、穢れているという理由でこんなにも残酷になれるのかとメルヴェーユは内心で驚いた。


 そして、何事もなかったかのように起き上がったメリッサの手を引き、何も言わずに山を登り始めた。


 メリッサも何も言わない。仮面の下の表情を知ることもできない。

 だが、彼女は彼の表情を見て、小さく、「ルンルン」と歌い出した。


 メルヴェーユを元気づけるために。 


 現実へと戻ってきたメルヴェーユは内心で、(嫌なものを思い出した)と思いながら、アリューデを見た。


 今、メリッサはいない。

 母の時のような失敗はないだろう。するはずがない。


(いや、待て。衝動に身を任せるな。この女はこれで、まだ利用価値がある)


 山頂についたら、家臣たちがテントを広げ、夕餉の支度をする。

 肉や香辛料が焼ける匂いが辺りに漂うが、メルヴェーユにはそれがやけに物足りなく感じられた。


 毎年、テント作りも夕餉作りもメリッサと二人で、ふざけ合いながら、二人っきりの食事を作っていた。


 今年は「王族は王族らしく振る舞うべきです」と言うアリューデの意見を聞き、彼は座っているだけだった。


(つまらないな)


 夜になって、星を見上げた。


 アリューデは隣りにいる。

「陛下、もう随分と遅くなりましたが、まだお眠りになりませんの?」

「星を見ていたいんだ」

「私、陛下といたいのです」

 頬を赤らめながら言った。


 それから、彼女は、

「私、嬉しいのです。氷の貴公子と言われる美貌のあなたの妻になれたことが」

「氷の貴公子……か」

「あなたは笑わないことで有名ですから。私がいつか必ず笑わせてみせますわ」


 メルヴェーユは静かに頷いて、空を見上げ続けた。

 一晩中、アリューデは横にいて、「時々、陛下眠りましょう、星ばっかり見たってつまらないでしょ」と言ってきた。


 毎年、メリッサは地面に寝始めるので、自分が抱き上げて、静かに空を見続けていた。

 満天の星空を見ることは嫌いじゃない。

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