離宮(メルヴェーユ視点)
離宮は山にある。
場所が場所なので、王都の城よりは手狭だが、涼しく自然豊かな場所だ。近くに町があるわけでもない。
アリューデは腕の赤みを気にしながら、
「ここは虫が多いですわね……」
蚊に刺されたのを気にしているようだ。
山の中だから、こればかりは王であってもどうすることもできない。
メルヴェーユはアリューデに向かって、淡々と、
「執務が一段落ついたら、数日後に俺は山登りに行く。道はやや険しいから、妊娠している夫人は歩くのは酷だろうから、この離宮で留守を預かってくれないか?」
アリューデは首を横に振り、
「い、いえ!ぜひ同行させてください!妻としてあなたと一緒に山登りしたいですわ」
「山で何かあってもいけない」
「妊娠中とはいえ、大丈夫ですわ!問題ありません」
「それなら、医者に事前に診てもらって、山登りをしても大丈夫かどうか判断してもらうべきだ」
彼女は露骨に動揺し、
「え、えっと……。ひ、必要ありませんわ。体調も万全ですし」
「だが、山に登るのだから、事前に体を診てもらったほうがいい。山で何かあってからでは遅いからな」
「本当に大丈夫です!あなたは私の言葉を疑うのですか!?」
「君と君のお腹の子を心配しているんだ。医者に診てもらわないのなら、君を連れてはいかない」
アリューデは歯噛みしてから、
「わかりましたわ!診てもらいますわよ」
彼女が去ったあと、メルヴェーユは執事に向かって、
「アリューデが本当に妊娠してるのか調べさせろ」
執事は頭を下げて、部屋を出ていった。
数時間後、アリューデに月のものが来ていることが判明してしまった。
彼女はすぐにメルヴェーユの下に来て、
「へ、陛下!最初は妊娠したと思ったんですの!月のものが来るのが遅くて……」
「月のものが遅いことも、そういう勘違いをすることもあるだろう」
表面上はそう声をかけながらも、内心では面倒なことになったなと苛立っている。
アリューデはメルヴェーユの内心に気づくことなく、安堵のため息を漏らした。
「医者の診察で、君も疲れただろう。部屋に戻って休むといい」
「あ……、あの、よろしかったら、しばらく陛下のおそばに置いていただけませんか?一緒にいたいのです」
「あぁ、いいぞ」
メルヴェーユが短く言うと、アリューデは安心したように、彼の隣のソファに座った。
メルヴェーユは内心で、この世で裏切りもせず、嘘もつかない人間はメリッサしかいないと思っている。
そして、脳みそが勝手に過去を思い出し始めていた。




