離宮への旅
メルヴェーユはメリッサを連れて、夏の離宮へ行くために王族専用の馬車へと乗りこんだ。
メリッサは召使なので、椅子に座らせることはせず、床に小さなクッションを置いて座らせる。
通常、下級の召使を王族専用の馬車に乗せるなんてありえないことなのだが、自分がわがままを押し通して乗せている。
もっとも、城の貴族たちも、メルヴェーユがメリッサを連れて出歩く時はアクセサリーが如くそばから話さないのを知っているので、表立って非難はしない。
だが、次にはアリューデが侍女を伴って乗ってきて、いきなり眉をひそめた。
何も聞かされていないメルヴェーユは驚いて、
「君は別の馬車に乗るはずじゃなかったか」
「あなたと一緒の馬車に乗りたかったんですの」
アリューデは微笑んだ。
彼女は次に床に座るメリッサへと目を落とすと、途端に嫌悪の表情となり、
「その召使も一緒にこの馬車に乗るんですの?」
「そのつもりだ」
「その召使は王族の馬車にはふさわしくありませんわ」
「身の回りの世話以外にも俺の暇つぶし用の遊び相手として乗せている。離宮までは長いからな」
「だとしてもですわよ。それに、光ったのでしょう。気味が悪いとは思いませんの?」
メルヴェーユはキッと顔を上げ、
「君は俺の弟を侮辱しているのか?」
「え?」
「俺の弟は幼い頃に教会で光り、司祭への道へと進んだ」
「いえ、決してそんなつもりでは。それに、王族と醜い下級の召使ですもの。光だとしても大きな違いがありますわ」
メルヴェーユは確認するように尋ねた。
「君は馬車に召使が乗っているのは嫌なのか?」
「も、もちろん。この馬車は王族専用ですもの」
「そうか。それなら、……メリッサ。馬車から降りろ」
メリッサは頷いて、馬車を降りた。
アリューデは満足げに、メルヴェーユの横に座り、「二人っきりですわね」と言った。
正確には、アリューデの腹心の侍女がひとり乗っているのだが。
メルヴェーユは立ち上がり、
「少し待っていてくれ。執事と話をしてくる」
彼はメリッサを留守番させるか使用人専用の馬車に乗せるか迷った。
馬車に乗せれば、他の使用人たちにいじめられるかもしれない。
メルヴェーユはメリッサを連れて、執事の元へと向かった。
「メリッサを馬車から降ろした」
「そうですか。使用人の馬車に乗せますか?」
彼はそうしろとは素直に答えられなかった。
メリッサが他の使用人のせいで辛い思いをするのは耐えられないし、城で留守番をさせても不当な扱いを受けないか心配だ。
その気持を察したのか、メリッサが遠慮がちにメルヴェーユの袖を掴んだ。
きっと彼女は心の中で、自分は大丈夫。ルンルンするですと思っているに違いない。
メルヴェーユは決められないでいると、いきなり現れたのはレイエだった。
「王様!その召使を預けるのにいい場所知ってますよ!俺にお任せください!」
今の彼は人間の姿をしているが、メルヴェーユは呼び出していない。
メリッサは嫌がるように言った。
「私は王様にルンルンしてあげるです」
「メリッサ嬢!王様を困らせてはいけませんよ!さあ、行きましょう!」
レイエはそう言って、メリッサを引っ掴むと空を飛んで行ってしまった。
「わー。離すですー」
「黒ジュースがありますよ」
「行くですー」
メリッサは大丈夫そうだ。
きっと大丈夫だ。
大丈夫に違いない。
執事が慌てて、
「へ、陛下!」
「……構わん」
飛んでいく二人を見上げながら、レイエ、頼んだぞと神に祈るような気持ちで思った。
馬車に戻ると、アリューデは喜色満面で、
「あら、あの召使はどこに行ったんですの?」
「知り合いに預けた。離宮には来ない」
「まあ、そうなんですの」
アリューデは自分に体を寄せてきた。




