表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

フローラル王国物語

家なき子のあした

作者: くろ

※注意※ゆるりんふわりん設定


主人公オスカー・ロイエンの設定を書きたかっただけの話。

起承転結がないのでもやもやします。それでも宜しければ、ご一読くださいにゃっ。



 ユリウス大聖堂敷地内にあるローラン枢機卿候補の宿坊へ伝令が届いた。《長丁場に成りそうだからオスカーは、フローラル王国へお出で》と誘われて、ローラン様の執事に言われる儘に、俺はフローラル王国の王都パルスへ遣って来た。


 てっきり下男としての手が足りないのかと思いきや、アーシュレイ家のお嬢様の教育がいつ終わるか分からないから、暇を持て余す俺に、来年フローラル王国の王立ロイス貴族学院の留学生に成れと、主であるローラン様からの思し召しだった。



 (面倒くさい。)



 そう俺が思うこと等分かった上で、ローラン様は此の話を持って来たのだろう。

 恩義があるので口に出して文句は言わないが、、、でも、言いたい。

 ローラン様は、自分が仕事をしているのに、俺が宿坊でまったりしているのが、胸糞悪かったのだ。


 略略、枢機卿になるのは確定しているのに、面倒なことばかりをアンゼル枢機卿様から命じられ、腹立たしいとブツブツと不平を零して居たローラン様。

 その八つ当たりに付き合わされるのが俺。

 既に5年近くの付き合いがあるので、僅かにだがローラン様の思考パターンが、読めるようになった。



 ローラン様が面倒な性格をしているのは、兄弟子であるアンゼル枢機卿様に似たのだろう。



 それは兎も角、現在12歳の俺は、慌ててフローラル王国のオラン語の勉強をしている。

 元はローラン様と同じくバンエル公国が出身だった俺は、オベリスク帝国地域での言語ロマン語が母国語だった為、オラン語に手を焼いて、否、難聴に苦しんでいる。

 大抵の言語は、器用に操るローラン様とは、出来が違うことを、いい加減気付いて欲しい。 誰に? 勿論、俺にフローラル王国で学院生活を送れ!と命じたローラン様本人に!!





 俺、オスカー・ロイエンは、ローラン様と同じバンエル公国出身だ。

 今は聖職者に成っているので、世俗との縁が切れ、ただのローランだと本人は言い張っているが、バンエル公主の第3公子なのである。


 男爵家を姉と二人で飛び出し、孤児と変わらないエセもん伯爵子息の俺とは、全く違う人種である。



 俺の家は、裕福な商家の母を妻にし、なんとかかんとか貴族家の体裁を保っていた。

 しかし俺が5歳の時、母の生家の船が海難に遭い、保証金で困窮し、破産した。それを気に病んだせいか母は俺が6歳の時亡くなり、喪が明けない内に父は子爵家の未亡人と再婚した。


 俺と同じ年の義弟と共に男爵家に入って来た。


 それと同時に俺は地下牢へ閉じ込められた。

 3歳年上の姉は、父と継母から下働きとして扱われ、過酷な日々を過ごしていた。


 7歳になったある日、姉は真っ青な顔をして、潜んで地下牢に囚われていた俺の元へ姉が現れた。


 

 「オスカー、今夜、この屋敷から逃げ出しましょう。」

 「どうしてですか?姉さま。何か父上たちから酷いことをされたのですか?」

 「いえ、恐らくこれからオスカー、貴方が残酷な目に合うでしょう。父が後継のお披露目会に貴方でなく義弟を参加させようとしています。貴方は未だ親族の誰とも顔を会わせたことがありません。それをいいことに義弟と貴方を入れ替えるのでしょう。今夜、抜け出しますから覚悟していて下さい。」



 そう告げた姉は、その後執事の手助けで、俺と連れて辻馬車を途中の町で拾い、なんとかバンエル公国の公都まで逃げ延びた。

 僅か一泊二日の逃避行だったが、全く体力の無かった俺はボロボロで、瀕死だった。


 そこへ運良く修行中だったローラン様に姉弟で拾われた。


 所用で、バンエル公国の大聖堂に滞在していたローラン様は、姉と俺の話を聞いて、生家の男爵家を調べてくれた。


 既に、7歳の祝福の儀を義弟は、俺の名で受けていて、親族達へのお披露目会も当然義弟が、後継のオスカーとして紹介されていた。


 「ヒルダとオスカーは、どうしたい?男爵家を取り戻したいなら、力を弟に頼んで力を貸すけど?」


 右の銀色の眉尻と薄く整った唇の端を上げて、ローラン様は意地の悪い笑みを浮かべて告げた。

 その言葉に俺と姉は、同じような深い黄金色を帯びたオレンジ色の瞳を見合わせて、頷き合った。


 「下働きの下女として扱われて来たので、父たちとは関わりたくありません。」

 「俺も姉と同じで、あそこには、嫌な想いでしかありません。二度と帰りたく無いです。」

 「ふむ。ヒルダは10歳か。そしてオスカーは7歳。もう少ししたら僕は神聖ロベリア教皇国へと戻るから‥‥‥ なら一緒に行こうか。向こうには当てもあるし。」



 気楽にそんな言葉を呟きローラン様は、俺達姉弟を連れ、船や馬車に乗り二ヶ月以上掛けて、バンエル公国から神聖ロベリア教皇国へと連れて行ってくれた。


 偶にローラン様は「公国の大聖堂からだったら、ユリウス大聖堂迄、直通だったのに。」と、訳の分からないことをぼやいていた。






 「あの時は、美人の姉を売って、飲み代を稼ごうと思っただけだよ。」


 と、救って貰ったお礼を言おうとすると不貞腐れた様に、ローラン様は言う。

 俺が死にそうだったので、姉は神に祈りながら、必死で人々に「弟を助けて下さい」と、声を掛けていったらしい。

 その時期は、修道士と表向きは、名乗って居たらしい。


 その逃避行は、余程俺には苦痛だったのか、記憶が朧で曖昧だけども。



 露悪的な言動は兎も角、神聖ロベリア教皇国へ着くと、姉と俺はローラン様の兄弟子であるアンゼル枢機卿様の世俗の家門ロイエン伯爵家へと養子に入ることになった。


 神聖ロベリア教皇国は、宗教国家と名高い所為か、ノブレス・オブリージュ精神を発揮し、貴族が孤児たちを養子にする制度が整っていた。

 但し、貴族が養子にするのは、有能な孤児だったことを後に知る。軟禁されて居た男爵家から執事を味方に引き入れ俺を連れて脱出させた10歳だった姉ヒルダの手腕を買ったのだと言う。俺は飽く迄、序でロイエン家の家名に書類上、連なった。



 そして俺は、オスカー・ロイエンに成った2年後、───ロイエン家へ養子に入れた事情を知る。



 「序でなんて飛んでもない。オスカーが瀕死の状態に成って居なければ、ヒルダが真摯に神に祈らなかった。そして僕と知り合うことも無かった。だからズタボロで瀕死だったオスカーこそが神の恩寵の御子なのですよ。」


 赤味を帯びたサファイアブルーの瞳を細め、綺麗な笑顔を作って、ローラン様は尤もらしい口調で俺を気遣うフリをする。


 姉のヒルダは、才と豪胆さを買われ、ロイエン家に入り、貴族令嬢としての教育を受ける。将来的にはロイエン伯爵家の子女に仕えるのだろう。それか、教会や神殿を守る聖騎士の妻として嫁がされるかだ。聖騎士だけは身分関係なしになれる。ロベリア教皇への揺るぎない忠誠心と強さが必要だが。


 そして、序での俺は、ローラン様の小姓として、付き従い、身の回りの世話をしている。命の恩人なので忙しなくローラン様の世話をさせて頂くに否は無い。

 が、偶にシャレに為らない悪ふざけを仕掛けて来る。「いつか殺してやる。」と、殺意が湧いたことも一度や2度では無い。


 ユリウス大聖堂敷地内では、女人禁制である。

 神聖ロベリア教皇国のユリウス大聖堂は、各国にある聖堂付属の神学校を出て、誓約の儀を行い、神職に就くと選択した13歳以上の少年が、修道士見習いとしてコレージュで神学を学ぶ。


 婚姻禁止と敷地内へ女人立入禁止。


 1つの町程に広大なユリウス大聖堂の敷地内に存在するのは全て男。

 世俗的に男色は禁止されているが、教会内では明文化されてない。 「神聖な場所でエロいことをするな。それぐらい暗黙のルールで解れよ。」とは、ローラン様の弁。 軈て神への祈りでも色欲を抑え切れない迷える子羊たちは、美しい少年へと愛を捧げ始める。


 ローラン様の手引きで俺の寝室へ入り込んで来た男を撃退した後、ローラン様はニヤニヤと口元を緩め、「やっぱり大丈夫だった?」と残念そうに安否確認してくる。(いっぺん死んで来い!)と内心で罵る。


 

 「僕ほどでは無いけど10歳になったオズ(オスカーの愛称)は、見栄えが良くなったね。オレンジの瞳に若草色の髪って美味しそうに見えるから、気をつけるんだよ。ここで生活しているとこんなトラブルは当たり前に起きるからね。」


 俺には判る。

 ローラン様は心配などしていない。絶対に!

 声が滅茶苦茶楽し気だったのだ。


 姉と俺の生活環境が整い、身辺が落ち着いた9歳の頃。

 ローラン様に呼ばれて、散歩に行くことになった。その時のローラン様のテンションの高さに俺は警戒すべきだったのだ。


 「オズと一緒に禁断のスポット巡り~♪」


 コレージュ近くの林に入ると、見ては行けない修道士と修道士見習いの兄弟愛の肉体的絡みを其処かしこで目にする羽目になった。


 「今日はまあまあの人手だったかもね。」

 「うっぷ。気持ち悪い。」

 「オズはピュアだね?そんなんじゃ此処で生きていけないよ?」

 「俺は神様に此の身を捧げたいのです。」

 「オズは返品されてるじゃん。去年の夏至祭で祝福の儀をしたら、祝福を授からなかったでしょう?オズは世俗で生きなさいと。」

 「‥‥。」


 

 ローラン様なりのユリウス大聖堂敷地内で生きる為の早期教育だったのかも知れない。

 面白がられていると思うのは、敷地内に在る店や講堂へと良く使いに出される所為だ。


 怪しい修道士や神学生が1人で歩く俺に声を度々掛けて来るし。

 親切な人?

 いいえ、親切な人はあんなネチっこいヤラシイ目で俺を見ない。

 偶に恋文を渡されるし。



 「ローラン様はオスカーが可愛いんですよ。」



 などと、ローラン様に仕える執事や他の同僚たちは、笑顔で俺を慰める。


 嫌われていないと思うけど、俺への構い方が捻くれ過ぎているのだ。


 俺に礼儀やマナーを教えて呉れる執事は、ローラン様の申し出を受け、バンエル公国から神聖ロベリア教皇国へと移住して来た光属性の祝福持ちだ。


 執事はカール・アーレン元男爵、祝福持ち38歳既婚。


 バンエル公国はユリウス教国では珍しく商売が盛んな国で、貴族でも破綻してしまう家が多い。アーレン家もそんな1つだったらしい。

 12歳で神殿の寄宿舎を出て父から宮廷で学んでいたのだが、父親の投機でアッサリ破産し、名だけは継いだ。バンエル公国の場合は、爵位に応じた税と確りとした後見人が居れば、後を継げる。それは領地持ちの貴族が少ない為だ。領土は狭いが、鉱物資源や東西南北に流れる川を使った流通業で、国としては豊かなのだ。



 俺たちの身辺が落ち着いた頃、ローラン様からそう執事の紹介をされた。



 その時に俺たちが脱出した男爵家の話をローラン様から聞いた。




 父や祖父母、親族達は、宮廷に巣食う役人一家だった。嫌、遣らねばならない政務が多いのは理解していたから宮廷貴族を嘲る心算は無い。


 他国より貨幣経済が発展していたバンエル公国。

 (その所為でロベリア教皇たちユリウス教会の首脳陣から監視対象国となっている。)


 そんなバンエル公国では、投資が盛んだ。

 皆がするように祖父もとある工房へと投資した。胡散臭い名ばかり工房へ。そして知らぬ間に工房が消えた。当然のように祖父は大損をして借金をした。そして男爵位の税を支払う為に裕福な商会の娘を父の妻にした。多くの持参金と融資を得る為に。


 しかし、祖父母や父は、融資の契約上妻にしたが、平民を正妻にすることに拒否感があった。そんな思いがあったから魔が差したのか‥‥‥。


 知人の子爵家の若い未亡人と父が男女の仲になった。 ちょうど姉のヒルダを身籠った折り。


 本来なら祖父母が父を諫めるものだが、平民の血を入れることに納得していない二人は、父と未亡人との仲を後押しした。


 この時、既に薄っすらと、今回の計画を企てていたのかも知れない。



 母の実家からの要望で、母から生れた男子を男爵家の嫡子にすることが、融資金を返済せずに済む方法だった。


 父の愛妾である未亡人のことや異母弟のことなど、母や俺達も知らなかった。

 2歳年上の姉のヒルダの話では、母と俺たち3人は男爵家の屋敷の一室で、閉じ込められるような暮らしをしていたそうだ。


 別段暴力を振るわれるコトは無かったが、蔑んだ目で見られ、居ないモノとして扱われていたと言う。


 姉と俺は、文字や計算などは、母から学んだ。 俺たちに似た夕焼け色の瞳が、美しい母だった。「私たちがお母様に似たのよ。」と年に一~二度会う姉は言う。若草色の父似の髪は、甚だ不快だ。姉のヒルダの飴色の母似である髪色が羨ましい。



 そんなヒッソリとした生活は、母の実家が破綻した俺が五歳の時に終わる。


 待っていたかのように俺たちは離れで閉じ込められ、母も倒れる。そして母が使った事のない妻の部屋に未亡人が入り、異母姉と異母弟が屋敷内を闊歩した。

 そして俺は、父に地下牢へと移された。



 姉のヒルダは、病床に着いた母の世話をしつつ、執事や庭師、下働きに者たちと交流し、母の最期を看取り、俺を男爵家から解放する算段を立て始めた。


 義母弟が、俺の名で祝福の儀を受けることを知った時、姉ヒルダの逃亡計画が始まった。



 協力者である執事には、母の宝石や持参金の一部を渡し、屋敷の外に逃亡の手助けをしてくれる人を雇って貰った。


 概ね、姉の計画通りに逃亡出来たのだが、公都に入り破落戸に囲まれ追い剥ぎに遭い、手助けしてくれていた2人共はぐれ、這う這うの体でバンエル王国の大聖堂が見える大通りに出て、助けを求めた。


 ローラン様に助けられた後、宿で姉弟2人、熱を出して寝込んだのは仕方のないことだと思う。この時、姉のヒルダは未だ9歳だった。


 ローラン様が言うには、お披露目会が済んだ後、川湊に迎えに来ていた東アトラスの奴隷商へと、俺たちを売る予定だったそうだ。

 一応、アトラス大陸の西方ユリウス教の諸国では、奴隷を禁じているが、東方正教会を信仰する諸国では、奴隷売買が赦されているらしい。


 俺たちが消えた翌日、執事は責任を取る形で、男爵家を辞したそうだ。


 「それ以上の罪を与えようとしたら父たちを脅すように助言して置いた。」と姉のヒルダは涼しい顔で俺に打ち明けた。

 可愛らしい少女の顔の姉ヒルダが、心底オソロシイと感じた瞬間だった。


 俺の怯えを悟った姉のヒルダは、「お母様譲りなの。」と、ハッとする鮮やかな笑顔を向けた。

 母は持参金を祖父母たちから隠し通し(実家が困窮しても渡さなかった)、病床で、姉に隠し場所と此れからの忠告をしたと言う。



 父たちは、使用人達に俺と姉の行方を探させていたが、内密での捜索なので、早々に諦めたとローラン様が話す。


 そしてジッと確かめるような視線で姉を窺い、念を押すようにセリフを続けた。



 「本当に男爵家へ復讐とかしなくて良いのかい?ヒルダ。」


 「構いません。思い入れも何もないので、此れ以上は時間の無駄です。母の願いは、私とオスカーが、元気に生きて行くことでした。母は、実家のことも見限っていましたし。恐らく、放って於いても男爵家は衰退して行くでしょうから。 それよりもローラン様、私たちのことを宜しくお願いします。将来、姉弟2人で、きっとご恩をお返ししますので。」


 「要らないよ。まあ、師のアンゼル枢機卿ならヒルダを気に入るだろうから、悪い様にしないよ。一般の信徒には、良い人だから、アノ人。で、オスカーは良いの?少しだったら俗世の権力を使えるよ?」


 ニヤリと黒い笑顔で話すローラン様が怖くて、俺はブンブンと首を左右に振った。


 今から思えば、2ヶ月以上の長い旅路をローラン様が、俺たち姉弟の子守をしてくれていたのだよなと、改めて感慨深く思う。








 「今のバンエル公国では、貴族と平民の衝突がいずれ避けられないね。」


 当時15歳だったローラン様は、手入れがしやしように整えていた短い銀髪がやっと肩近くまで伸び、南西から吹く風に煌めく髪を揺らして居た。


 そして、赤味が混じるサファイヤ・ブルーの瞳を何処か遠くへ向けて、溜息と共に憂い顔をした。


 「幾ら父上でも、人々の欲望に煽られた熱狂は、止められ無いか‥‥。」


 大河を東に向かう帆船の上で呟いたローラン様の言葉は、南西から吹く風に溶けて消えて行った。







 国外から訪れている人々が滞在している王都パルスの異民街にある集合住宅の一室。

 此処は、王城のある中心地から離れた場所に在る。


 後見人のアンゼル枢機卿様からは「また悪ガキのロロに絡まれたのか。」と慰められ、王都パルスの貴族街の屋敷を紹介して呉れると言ったのに、ローラン様は、「もう僕が借りてるから!」と断り、フローラル王国民である従僕を用意した。


 「司教から紹介された屋敷にオズが住むとか面白くない。」


 ローラン様が、ポツリと零したのを俺は聞き逃して居ない。

 どうせ、そんな所だろうと思って居ましたよ。ええ。




 調度、フローラル王国に着き、引っ越し手続きが終わった頃、ローラン様が赴任先のアーシュレイ侯爵領地から王都パルスへと訪れていた。

 ローラン様の瞳は、青から紫眼となり、長く伸びた銀色の髪は、後ろ背で1つに結ばれている。平服である黒の修道服を纏い、神秘的な美しさを醸し出している。


 ローラン様は、喋らなければ、中性的な絶世の美女である。



 フローラル王国建国祭の熱気が漂う中、「小姓としての仕事をしてよ。」とローラン様が宣うので、歪な六角形の中央に位置する王城へと向かい、招待されている茶会の庭園へと足を踏み入れる。


 ライラックやマロニエの花々が咲き誇り、スズランやアイリス、パンジーなど建国祭を彩る華やかな庭園に入ると、ポーターがローラン様を案内し、指定された席へと座る。



 「今日の茶会は何なのですか?ローラン様。」

 「知らないよ。行ってこいとアンゼル枢機卿に言われただけ。年頃が13歳~9歳で、高位貴族の子女ばかりだから、第一王子の茶会かもね。子供の相手は、アーシュレイ侯爵家のオリビア嬢だけでいいよ。」



 「子供の相手は苦手なのに。此れってアンゼル枢機卿の罰の一環だろうなあ。」と、ブツブツと愚痴るローラン様を横目で見て、30席ほど並べられたテーブルに着く少年少女たちを眺める。その周囲を色とりどりなデイドレスを着た貴婦人たちが囲む。

 

 「オズも混じって来たら?」


 と宣うローラン様の軽口は聞かなかったことにした。


 数年後に第一王子の婚約者は、ローラン様の妹、バンエル公国の公女と決まることを、此の頃、ローラン様自身知る由も無かった。



 それにしても、ローラン様の傍に居ると羨望の眼差しが痛い。


 (教会関係者を従者にすればいいのに。)


 纏わりつくよな視線の多さに居心地悪さを感じて、俺は独りごちる。


 俺のような祝福を得られなかった半端者ではなく、枢機卿候補であるローラン様に憧れを持つユリウス大聖堂の人間は多い。

 世俗的には、助祭の立場を取っているけど、知られたらローラン様の人気は、もっと上がるのだろう。


 教会中枢部を担う予定のローラン様は、孰れ、俺が直接姿を拝することも出来ない存在に成って行く。


 8歳の時、ユリウス大聖堂で祝福を得られなかった時、俺の失望感は暫く立ち直れない程、大きかった。


 男爵家を逃げ出し、ローラン様に拾われて、神の奇跡を信じた。

 だから、当然、ローラン様の後を追えるように、祝福を得れると確信していたのに。 結局は神職で生きることを拒絶されてしまった。


 俺は、いつまで此の立場で、ローラン様の傍に居られるのだろうか。

 優しさを捻じれた表現で表すこの人と。






 ざわざわと来賓の人々が騒めき、第一王子、2人の王女たち王族が庭園へと入って来たようだ。



 ちらりとローラン様を見ると、涙ぐんでいた。

 ああ、この人は───


 欠伸を噛み殺して居たのだろうな。



 

 俺は、高貴な茶会を眺めつつ、今日はローラン様と過ごせることを確認し、早くユリウス大聖堂敷地内の宿坊で共に過ごせる日々を俺は澄み渡る5月の空へと願った。






【完】






16年後の28歳でオスカー・ロイエンは、オリビア・アーシュレイ侯爵令嬢24歳と結婚する。


 

バンエル公国⇒オベリスク帝国の7つある選定諸侯の1つ


国境に面して、 南はフローラル王国 西はオランド王国 北はプロメシア 東はオベリスク帝国など




オスカー・ロイエンが、王都パルスに訪れた頃。ー建国祭ー



オスカー・ロイエン12歳

ローラン枢機卿候補21歳

フローラル王国第一王子11歳



オリビア・アーシュレイ8歳

ジルベール・アーシュレイ6歳


フェリクス第二王子 6歳


     

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ