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恋愛秘密クラブ  作者: 白熊 猫


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9/22

第9話 2人で動画視聴

放課後の図書室は、今日も静かだった。

窓の外では、西日がゆっくりと傾き始めている。

いつもより少し遅くなった時間、空は資料室の前で深呼吸をひとつしてからドアを開けた。

「こんにちは、空。」

未来は、いつも通り微笑んでいた。

その笑顔に、ほっとする。

けれど、どこか今日は雰囲気が違って見えた。机の上には、ノートやペンではなく、一台のスマホが置かれている。

「今日の恋の練習はね、これを使うよ。」

「スマホ?」

「うん。一緒に動画を観よう。」

「動画?」

「そう。恋人っぽく一緒にお互いが好きな動画を隣に座って観るの。」

「でも、音出したら図書室の人にバレるだろ。」

「大丈夫。ちゃんと対策してあるから。」

そう言いながら、未来はスマホの横に白いイヤホンを取り出した。

見慣れた、コードのついた有線タイプ。

未来が軽く微笑むと、イヤホンのコードを指で持ち上げた。

左右に分かれたイヤピースが、白い線で繋がって揺れる。

「片方ずつ使えばいいの。ね?」

「……片方ずつって。」

「そう。空が右、私が左ね。」

言いながら、未来は左のイヤホンを自分の耳に差し込む。

その仕草が自然すぎて、空は少し戸惑いながらも右のイヤホンを取った。

コードがピンと張られて、ふたりの距離が強制的に近くなる。

……近いな。

目を向ければ、未来の横顔がすぐそばにあった。

指先を少し動かせば触れてしまいそうな距離。

髪がふわりと揺れて、シャンプーの香りがかすかに鼻をくすぐる。

「じゃあ、観ようか。」

「あ、ああ……。」

未来が再生ボタンを押す。

画面には、明るい映像とともに音楽が流れた。

映っているのは、学生たちの青春を描いたミュージックビデオ。

制服姿の男女が笑い合い、放課後の街を歩く。そんな穏やかな映像だった。

「これ、私が好きな曲なんだ。」

「へえ、初めて聴いた。」

「寝る前とか、勉強中に流してる。」

「……未来らしいな。」

「どういう意味?」

「落ち着いてるけど、ちょっと切ない感じ。」

「……そうかも。」

未来は静かに笑った。

その笑顔が、イヤホンのコードを伝ってこちらにまで届くような気がした。

音楽が進むにつれ、空は次第に自分の心臓の音に気づいていった。

たぶん、未来に聞こえるほどではない。

でも、自分の耳にははっきり届いている。

肩がほんの少し触れ合うたびに、心が跳ねたように感じた。

……落ち着け、ただの練習だ。

そう言い聞かせながら、平然を装って画面を見つめる。

「じゃあ、次は空の番」

「俺の?」

「うん。空のおすすめの動画、観せて?」

未来がそう言って、スマホを差し出した。

空は少し考えてから、好きな音楽のMVをひとつ選び、再生ボタンを押した。

イヤホンのコードがまたふたりを繋ぐ。

今度は未来が少し身を寄せ、画面を覗き込む。

距離は、息をすれば頬が触れそうなほどだった。

映像は静かな夜の街を映し出していた。

ピアノの音に合わせて、淡く光る街灯と通り雨のシーン。

どこか懐かしくて、少し寂しい。

「きれいな曲だね。」

「こういう落ち着いた感じが好きなんだ。」

「空っぽい。」

「またそれ。」

「でもほんとにそう思う。静かだけど、ちゃんと温かい感じがする。」

未来の言葉に、空は何も言えなかった。

ただ、ふっと笑って、画面を見つめる。

その横顔を未来が見ていたことに、空は気づかない。



「空は、普段どんな動画観てるの?」

「うーん……旅行のやつとか、風景系のやつとかかな。」

「へえ、落ち着いてるね。」

「未来は?」

「私? ……動物動画とか、料理とか、あと女の子のダンス動画とか。」

「ダンス……?」

「ふふ、言わなきゃよかったかも。」

未来は顔を赤くして笑う。

その反応が新鮮で、空は思わず笑い返した。

「いや、なんか意外でいいと思う。かわいいじゃん。」

「……かわいいって言った。」

「あ、いや、その、動画が、かわいいって意味で……!」

「ふふっ、わかってるよ。」

未来がくすくす笑う。

それだけで、空の心臓はさらに騒がしくなった。

イヤホンのコードが少し揺れて、肩と肩が軽く触れ合う。

わずかに触れた温度が、頭の中まで伝わってくるようだった。



動画を何本か見終わった頃には、あっという間に時間が過ぎていた。

時計を見ると、もう放課後の終わりを告げるチャイムが近い。

「楽しかったね。」

「やる前は抵抗があったけど、案外こういうのも悪くないな。」

「恋人同士ってこういう静かな時間も過ごすのかもね。」

「……そうかもな。」

空は頷きながら言った。

恋人同士という言葉に、なぜか少しだけ胸がざわつく。

いつものように、ただ恋の練習なのに。

「ねえ、空。」

「ん?」

「今日、距離近かったでしょ?」

「……まあ、イヤホンのせいで。」

「そう。でも、近いのも悪くないよね?」

未来は軽く笑った。

それが冗談なのか、本音なのか、空にはわからない。

けれど、今のこの距離を少しも嫌だと思っていない自分に気づく。

未来って、こうやって笑うと、結構……かわいいんだよな。

未来はそれを見て、くすっと笑う。

「返事はないの?」

「ノーコメントで。」

「ふふ。」

小さな声で笑い合う。

その音が、イヤホンを外したあとも、耳の奥に残っていた。



資料室を出ると、廊下はすっかり夕焼けに染まっていた。

窓ガラスに反射する光が、未来の髪に橙色の輪郭を描く。

「じゃあ、また次の活動で。」

「うん。……あ、空。」

「ん?何?」

「今日、ありがとう。」

「? 俺も楽しかったよ。」

たわいのない言葉なのに、胸の奥がほんのり温かい。

未来が微笑んで手を振る。

その姿が夕日の中に溶けていくのを見ながら、空は小さく息を吐いた。

……もっと、未来のこと知りたい。

そんな気持ちが芽生えたことに、空自身が気づかないふりをした。

今日の恋の練習は、ただの練習。

――そう言い聞かせながらも、心の奥では何かが静かに変わり始めていた。

今日も投稿完了しました。

本日もう1話更新するかどうかは、PV値やブックマーク数とかをみて考えます。

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