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恋愛秘密クラブ  作者: 白熊 猫


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第7話 見つめ合いチャレンジ

放課後の図書室は陽が斜めに差し込んでいて、木の棚に金色の光がゆらめいていた。

静かなその一角――秘密クラブの部屋に、今日も空は少し緊張した面持ちで入っていく。

机の上には、未来が用意した二つの椅子。

彼女はすでに座って、何かを考えるように手を組んでいた。

そして、空の姿を見つけると、ふっと優しく笑った。

「今日も来てくれて嬉しいよ。今日はちょっと特別なこと、やってみようと思ってる。」

未来の声には、いつもより少しだけいたずらっぽい響きがあった。

空は首をかしげながら、机の反対側に座る。

「特別なこと?」

「うん。今日のテーマは――見つめ合いチャレンジゲーム。」

「……見つめ合い?」

「そう。恋人同士って、よく目を見て話すじゃない? だから、練習がてらゲーム感覚でやってみようかなって。」

未来は笑みを浮かべながら、机の真ん中にスマホを置いた。

画面には、1分のタイマー。

「ルールは簡単。お互いに見つめ合って、先に視線をそらした方が負けね。」

「……なるほど。そういうゲームか。」

「そうそう。恋愛ゲーム、だね。」

空は少し笑って頷いた。

見つめ合うだけなら簡単だと思った。

ただ目を合わせるだけ――そう思っていたのに、未来が少し身体を前に出してきた瞬間、胸の鼓動がひとつ強く跳ねた。

「じゃあ、始めよっか」

未来の指がスマホのスタートボタンを押す。

無音の空間で、タイマーの数字だけがゆっくりと減っていく。

空と未来の視線が、まっすぐにぶつかった。

最初の数秒は、何とも思わなかった。

未来の瞳は、少し長いまつげの奥で静かに揺れている。

光が反射して、小さくきらめいていて綺麗だ。

……近いな。

気づけば、いつもより距離が近い気がする。

机ひとつを挟んでいるし、いつもとそんなに距離は変わらないのに呼吸の音が聞こえそうなほど近くに感じた。

空は頑張って視線を保とうとする。

けれど、じっと見ていると、未来にもじっと見られてることを感じて落ち着かない。

未来は何を考えながら、見つめ合ってるんだろう。

「……空、顔が少し赤くなってる」

「う、うるさい。未来だって」

「え? 私?」

いつも通りの顔の未来が小さく笑う。

その笑い声が、静かな部屋に柔らかく響いた。

その瞬間、空は思わず視線を外しそうになる。

けれど、なんとか持ちこたえた。

心臓がやけにうるさい。

どうしてただ見つめているだけで、こんなにも息が詰まるんだろう。

「ねぇ、こうやって誰かの目を見ることって、あんまりないよね。」

未来がぽつりと呟いた。

「たしかに。話すときも、ずっと目を見るって……あんまりないかも。」

「でも、不思議だね。こうして見てると、なんか……空のこと、少し分かる気がする。」

「分かるって、何が?」

「たとえば、今ちょっと恥ずかしがってるとか。」

「そ、それは誰でもわかるだろ。」

「ふふ、たしかに。」

未来が目を細めて笑う。

その笑顔のせいで、空の集中力は限界に近づいていった。

その笑顔を見るたび、まっすぐ見つめることが難しくなる。

未来の瞳は、よく見ると少し黒よりも深い茶色をしていた。

光を受けるたび、微妙に色が変わっているような気がする。

長いまつげが影を落として、その下で瞳が静かに揺れていた。

まるで、吸い込まれるような感覚。

何も言えないまま、空は息を呑んだ。

「……ねえ、空」

「な、なに?」

「こうして見つめられるのって、嫌じゃない?」

「嫌じゃない、けど……。」

「けど?」

「ちょっと、落ち着かない。」

「それは、恋の練習としては成功かな。」

「そうなのかな?」

未来は微笑みながら、ほんの少しだけ顔を傾けた。

その動作だけで、前髪がさらりと揺れて、少し赤くなった耳が見えた。

その瞬間、ふと気づいた。

未来の頬も少し赤いことに。

……まさか、未来のほうも照れてる?

そう思った瞬間、目が合ったまま、どちらも動けなくなった。

ほんの数秒なのに、永遠に感じられる時間。

未来の瞳に、自分が映っているのがわかる。

その事実が、妙にくすぐったくて。

「っ……。」

耐えきれず、空はぱっと視線をそらした。

同時に、タイマーの電子音が静寂を破る。

――長いように感じた1分がようやく経ったみたいだった。



「……俺の負け、か」

空が苦笑混じりに呟くと、未来はくすっと笑った。

「うん、私の勝ち。空、最後、顔そらしたもんね。」

「いや、そりゃ……無理だって。」

「どうして?」

「だって、未来も照れて、耳が少し赤くなってたから。」

 未来の動きが止まる。

 そして、少しだけ俯いた。

「そ、そんなこと言わないでよ。」

「事実だろ?」

「……もう。」

未来は顔まで赤くして、笑った。

その笑顔につられて、空も笑う。

沈黙が、少し続く。

けれど、気まずさではなく、どこか穏やかな沈黙だった。

見つめ合っていたときよりも、少し距離はあるのに――心の距離は、逆に近づいたような気がした。



「……ねえ、空。」

「うん?」

「これも、悪くなかったね。」

「……ああ。意外と、楽しかった。」

「でしょ?見つめ合うって、けっこう大事なんだよ。」

「大事って?」

「目を見て話すだけで、伝わることってあるから。」

未来の声が少しだけ静かになった。

その意味を考えようとしたけれど、空はなんとなく答えを出せずに笑って誤魔化した。

「……まあ、次は負けないけどな。」

「ほんとに?私、空のこと、結構見るの得意だよ?」

「なんだそれ。」

「ふふっ。」

二人の笑い声が、静かな部屋にふんわりと溶けていく。

夕陽が差し込んだ机の上に、まだスマホのタイマーが光っていた。

たった1分。

でも、空にとっては、思いのほか長くて、胸に残る1分になった。

――見つめ合うだけで、こんなに心が動くなんて。

その日、空は初めて、目を合わせることの意味を少しだけ知った気がした。

今日の投稿は1話です。

また明日投稿予定なので、忘れずに読んでもらえると嬉しいです。

あと、感想とかもらえたらもっと嬉しいです。

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