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恋愛秘密クラブ  作者: 白熊 猫


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第4話 相合傘

その日の放課後、空はいつも通り教室を出る。

校舎の窓には、淡い灰色の雲が広がっている。

雨が降るかもしれない――そう思いながら、いつものように図書室の資料室へと向かった。

扉を開けると、そこにはすでに未来がいた。

机の上にはノートとペン、そして透明のビニール傘が一本。

「空、来たんだね。」

「うん。今日の活動は何?……というかなんで傘がここにあるの?」

「それは、今日は相合傘の練習をしようと思って。」

未来は小さく笑った。

「相合傘……って、あの、恋人がするやつ?」

「うん。」

未来は、いたずらっぽく微笑む。

「校則で恋愛は禁止されてるけど、秘密クラブなら、練習くらいはしてもいいでしょ?一緒に帰ろ。」

その言葉に、空の胸がどきりと鳴った。

練習――なのに、どうしてそんなに心が跳ねるんだろう。



ふたりで図書室を出ると、窓の外ではぽつぽつと雨が落ちていた。

すぐに本降りになりそうな空模様だ。

未来は傘を開いて、自然な仕草で空の方を向く。

「ほら、空。」

「え?」

「秘密クラブの活動、練習だから。早くおいで。」

そう言って、未来が傘を持って手招きする。

空は一瞬ためらったが、未来の表情があまりにも自然で、断ることができなかった。

「……じゃあ、お言葉に甘えて。でも、傘は俺が持つよ。」

傘を受け取った瞬間、未来はどこか嬉しそうだった。



放課後の通学路。

雨の音が近くで響いて、二人の足音が小さく重なった。

誰もいない並木道を、ふたり並んで歩く。

距離は近い。

思っていたよりもずっと。

空は、傘を持つ手が未来の肩に少し触れかかっていることに気づいた。

触れ合いそうな距離感が、なんだか落ち着かない。

でも、不思議と嫌な気はしなかった。

「こうして歩くの、変な感じだね。」

未来がふっと笑う。

「こんなふうに一緒に帰ることなんて初めてだもんね。」

「うん……。誰かに見られたら、ちょっとマズいかもな。」

「そうだね。校則違反、だもんね。」

そう言いながらも、未来の声にはどこか楽しそうな響きがあった。

「でも、秘密クラブの活動中だから、セーフだよね?」

「……秘密のクラブ活動だから、先生達には言えないけどね。」

空は少し笑ってしまった。

未来はいつもどこか可愛らしい。

ふと、風に揺れた彼女の髪が頬に触れそうになり、空は反射的に体を引いた。

雨の匂いと一緒にシャンプーのような甘い香りがかすかに漂ってきた。

「……近いね。」

「相合傘だから、仕方ないよ。」

未来は穏やかに笑ったまま、前を見て歩き続ける。

その横顔を見ているだけで、落ち着かない。

「ねえ、空。」

「うん?」

「こういうの、どう思う?」

「こういうのって?」

「恋人っぽいことの練習。」

未来の声は、雨音に溶けるように柔らかかった。

「うーん……変な感じだよ。最初はただのごっこ遊びみたいだったけど、最近ちょっと本気っぽいというか。」

「本気?」

「いや、その……。違う、そういう意味じゃなくて。ちゃんと練習してる感じがするなって。」

空は慌てて手を振った。

未来は笑っていた。

「ふふっ。空らしい感想だね。」

ふたりの間の少しの沈黙。

その沈黙を埋めるように、傘の上で雨粒がリズムを刻む。



途中の商店街の角を曲がると、未来が少し足を止めた。

「ねえ、空。傘、もう少し寄ってもいい?」

「え?」

「風、こっちから吹いてきて、濡れそうだから。」「あ、うん。」

空は傘を傾ける。

未来の肩が自分の腕に触れた。

その瞬間、鼓動が一気に早くなる。

未来は特に気にしていない様子で、まっすぐ前を見ていた。

ほんの少しだけ、距離が近づいただけで、こんなにも変わるのか。

たった1歩の距離なのにさっきまでとは全然違う。

未来に動揺していることを悟らせないようにしないと。

「そういえば、次の練習って、何しようか?」

未来が聞くと、空は冗談めかして答えた。

「うーん、次は手をつなぐ練習とか?」

「……それ、いいかも。」

「えっ、冗談だったんだけど。」

「でも、恋人っぽいよ。ほら、今日もこうして一緒に歩いてるし。」

未来のその言葉に、空は言葉を詰まらせた。

「俺たちにはまだ早い気がするな。」

彼女はいつも自然に距離を詰めてくる。

まるで、本当に恋人みたいだ。



駅が近づくにつれて、空の頭の中は少し混乱していた。

恋の練習――あくまで練習のはずだ。

でも、未来の笑顔を見るたびに、心が少しずつ動いていく。

彼女の声や仕草、雨の音に混じる香り……その全部が気になってくる。

「空、ここでいいよ。」

駅前の屋根の下に入ると、未来が立ち止まった。

「え?一緒に電車で帰らないの?」

「うん、でも今日はちょっと寄り道して帰るから。駅前で買いたい物があって。」

「あ、そうなんだ。」

「うん。」

未来は微笑む。

微笑んだ未来の耳がいつもより少し赤い気がした。

「空は先に帰ってて。」

その笑顔を見て、空は少しだけ寂しさを感じた。

たったこれだけの時間なのに、別れ際がこんなにも寂しくなるとは思わなかった。



「……じゃあ、また明日。」

未来が軽く手を振る。

「うん、また明日。……未来。」

名前を呼ぶと、未来の表情がわずかに柔らいだ。

「うん、またね。空。」

そう言って彼女は傘を閉じ、駅前の通りへと歩き出した。

空はその背中を見送りながら、ふと傘を見上げた。

雨音が、まだ静かに響いている。

相合傘のぬくもりは、もう消えてしまったはずなのに、肩のあたりにまだ未来の気配が残っている気がした。

あの距離、あの温度、あの香り。

ほんの少しだけ心に残る。



その夜、帰宅した空は机の上にスマホを置いた。

画面を開くと、未来からのメッセージが届いていた。

“今日はありがとう。相合傘、楽しかったね。”

その短い一文を見ただけで、胸がまた熱くなる。

指先が勝手に動いて、返事を打っていた。

“こちらこそ。なんか、変にドキドキしたよ。”

送信ボタンを押したあと、しばらく画面を見つめていた。

雨の音がまだ耳に残っている気がする。

あの時間が、ずっと続けばいいのに――そう思いながら、空は小さく笑った。

恋の練習なのに、なぜこんなにも心が動くのだろう。

それが秘密クラブの魔法なのか、それとも――。

空はまだ、自分の気持ちが何なのかわからなかった。

また、明日も投稿します。

楽しんでもらえると嬉しいです。

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