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恋愛秘密クラブ  作者: 白熊 猫


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第3話 恋人メール(SNS)

放課後の図書室は、今日も静かだった。

窓から差し込む光が柔らかく本棚を照らし、紙の香りがほのかに漂っている。

相川空は、昨日と同じように資料室の扉をノックした。

「……空、来てくれたんだね。」

扉の向こうから、未来の穏やかな声がした。

彼女は机に座り、いつものノートとスマホを手にしていた。

「うん。今日の活動って、何をするの?」

空が聞くと、未来は微笑みながらスマホを掲げた。

「今日はね、“恋人みたいにメッセージを送り合う”練習をしてみようと思うの。」

「恋人……みたいに?」

空は一瞬、聞き間違えたかと思った。

けれど未来は本気の表情をしている。

「そう。SNSで、恋人同士がやり取りするみたいに。

でも、もちろんここだけの練習だから。教室では何も変わらないよ。」

未来は落ち着いた声で言った。

スマホの画面を操作しながら、空の方へ差し出す。

「まずは連絡先、交換しよう?」

軽く笑って言う未来の笑顔が、少しだけ照れくさそうだった。

連絡先を交換する。

それだけのことなのに、空の心臓は少し早く打っていた。

女の子と連絡先を交換するなんて初めてかもしれない。

名前の横に「未来」という文字が並ぶ。

登録ボタンを押す指が、なぜか少し震えた。

「……できた。」

「私も。じゃあ、始めようか。」

未来は画面を見つめながら、小さく息を吸った。

「まずは……おはようとか、元気?とか。そういう普通のメッセージからにしようか。」

「了解。」

空は照れくさく笑いながら、文字を打ち込む。

“こんばんは、未来。今日も活動、楽しみにしてたよ。”

送信ボタンを押すと、未来のスマホが軽く震えた。

未来は画面を見て、ふっと笑う。

「ふふっ、空も楽しみにしてくれてたんだね。」

「ま、まあね。」

「なんか嬉しい。」

そう言って微笑む未来の頬が、夕日の光を受けて少し赤く見えた。

目の前にいるのに、メッセージを通じて会話している――その不思議な距離感が、心地よくもあり、くすぐったくもあった。

未来は指を動かし、メッセージを打った。

“私も楽しみにしてた。空と話すの、最近の楽しみになってるんだ。”

そのメッセージを読んだ瞬間、空は固まった。

画面越しなのに、まっすぐに気持ちが伝わってくる。

同時に、未来の顔を見ると、彼女は少し視線をそらしていた。

「……これ、練習なのに、なんか照れるね。」

空が苦笑すると、未来も少し笑う。

「うん。でも、それが“恋人ごっこ”の練習なんだよ。」

未来の言葉にごっこ遊びであることを再確認しつつも、本当の恋人になったらこんな感じなのかと思いもする。

「ねえ、空。」

「ん?」

「次のメッセージ、ちょっとだけ甘い言葉を練習してみようか。」

「甘い言葉……?」

空の心臓が跳ねた。

未来は笑いながら言葉を続ける。

「例えば、今日もかわいいねとか、会えて嬉しいとか。恋人が言いそうな感じで。」

「む、難易度高いな……。」

「大丈夫。ここは“秘密クラブ”だから。恥ずかしいことも練習できる場所なんだよ?」

未来の言葉に押され、空はスマホを見つめながら考えた。

そして、ゆっくり文字を打つ。

“未来、今日もきれいだね。夕日の中で、髪がきらきら光って本当にきれい。”

送信。

数秒の沈黙。

未来は画面を見つめ、ふっと笑った。

「……ありがとう、空。嘘だとわかっていても、ドキドキするね。

その笑顔に、空の方がドキドキしていた。

お世辞の部分も多少はあったけど、本当に思っていたことをコメントしただけなのに、こんなに嬉しそうな笑顔を見ているとまた言いたいと思ってしまった。

続いて未来が返事を送った。

“空もかっこいいよ。真剣にメッセージ打ってる時の顔、かっこよかった。”

「え……俺がコメント考えてる時、顔見てたの?」

未来は笑ってうなずく。

「うん。なんか、真面目なところが空らしいなって。」

そんなことを言われると、照れて言葉が詰まる。

男友達とSNSで話しているときとは、まるで違う。

短い文章のひとつひとつが温かい。

未来と話しているだけで、胸の奥がじんわり熱くなる。



しばらくして、未来が提案した。

「次は、少しだけ恋人っぽくしてみない?」

「……恋人っぽくか。」

空はスマホを持つ手に力を込めた。

未来は机の上で頬杖をつき、静かに空を見つめている。

その瞳に吸い込まれそうになりながら、空は打ち込んだ。

“未来と話してると、時間があっという間に過ぎる。もっと話していたいな。”

送信。

未来は一瞬だけ驚いたような表情を見せ、すぐにふわりと微笑んだ。

「……そう言われると、私も同じ気持ちになるよ。」

その声を聞いた瞬間、空の頬が熱くなった。

SNSでのやり取りとはいえ、目の前にいる彼女の表情を見るといろいろと伝わってくる。

恋人みたいという言葉が、ほんの少しだけ現実になったような気がした。

メッセージのやり取りを続けていると、あっという間に時間が経っていった。

送信と通知の音が、まるで小さな鼓動のように響く。

笑ったり、照れたり、沈黙したり――それでも、ふたりの間に流れる時間は穏やかで、心地よかった。

「空。」

「うん?」

「今日の活動、すごくよかったね。」

「うん……なんか、楽しかった。」

「ほんとに?」

「うん。男友達と話すときとは違う。未来と話すのは、なんか……あったかい感じがした。」

未来は嬉しそうに笑い、スマホをそっと閉じた。

「それでいいんだよ。ここでは、誰にも言えない好きを形にして、恋人の練習をする場所なんだから。」

その言葉が、まるでやさしい魔法のように空の胸に響いた。

まだ、好きとか恋とかはよくわからない。

でも、未来が笑うたびに、空は少しずつ学んでいけている気がした。



活動の終わり、二人はノートを開いて記録を書く。

SNSでの恋人メール。

ペンを置き、未来は小さな声で言った。

「次も、恋の練習、続けようね、空。」

「うん、未来。」

名前を呼んだ瞬間、また胸が熱くなった。

そのぬくもりを残したまま、ふたりは図書室を出た。

廊下に漂う夜の気配が、どこか優しく感じられた。

――“恋を練習する”秘密の時間。

まだ始まったばかりのそのやり取りが、空の中で静かに変わりつつあった。

今日の夜にもう1話更新するので、お楽しみに!

もっと読みたいと思ってくれる人がいたら、ブックマークしてもらえると嬉しいです。

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