第23話 告白!
沈黙が続いた。
未来の「ごめんなさい」という言葉が部屋に落ちてから、もう何分経ったのか分からない。
夕陽は完全に沈み、図書室の資料室は薄暗くなっていた。
カーテンの隙間から漏れる街灯の明かりが、未来の頬を淡く照らしている。
彼女の肩が、かすかに震えていた。
これ以上泣くまいとしているのか、それとも、全部言い終えた安堵なのか。
空は、机の上で握りしめた拳をゆっくりと開いた。
心臓が早鐘を打っている。
でも、今は逃げたくなかった。
「……未来。」
静かな呼びかけに、未来の肩がびくりと揺れた。
顔を上げた彼女の目は、涙で赤くなっている。
そんな未来を見て、空の胸の奥がぎゅっと痛んだ。
「……俺、さ。」
言葉を選びながら、ゆっくりと口を開く。
「確かに、未来には騙されてたのかもしれない。でも、不思議と、嫌じゃなかった。」
未来の目が揺れる。
「むしろ……未来が秘密クラブを作ってくれたおかげで、俺はすごく楽しかった。名前で呼びしたり、SNSで話したり、相合傘したり。プレゼント交換も、デートも……。全部、俺にとって本当に楽しかった時間だった。」
話しながら、自分でも驚くほど自然に笑みがこぼれていた。
懐かしい光景が次々に浮かぶ。
未来が恥ずかしそうに笑った顔。
少し照れて、目をそらした瞬間。
それら全部が、空の胸に温かく残っている。
「だから、ありがとう。騙したなんて言うなよ。あの時間は、俺にとって大切な思い出だ。」
未来の目が大きく開かれた。
そして、その瞳の奥に、また涙が光り始めた。
「……でも、私……本当は……空を、騙して……。」
「違うよ。」
空はきっぱりと首を振った。
「未来は好きだからこそ、勇気を出して動いたんだろ?そんなの……嬉しいに決まってる。」
言葉が出た瞬間、胸の奥に溜まっていた感情が一気に溢れた。
照れとか迷いとか、そういうものが全部消えていく。
「俺も、未来のことが好きだ。」
静かな部屋に、その一言だけが響いた。
未来の目が、見開かれる。
息を呑んで、何か言おうとしたけれど、声にならないようだ。
空は続けた。
「最初は、恋の練習だって思ってた。でも、気づいたら本気になってた。未来といるとき、いつも嬉しくて、どんなことしても楽しかった。だから――。」
空は一歩、未来の方に近づいた。
目の前で彼女が小さく震えている。
その瞳には、恐れと戸惑い、そして希望の光が混ざっていた。
「未来。俺と――付き合ってください。」
静かに、けれどはっきりと。
自分の想いを、まっすぐに伝えた。
図書室の時計の針の音だけが響く。
未来は俯き、唇を噛みしめていた。
そして、肩が小さく震えたかと思うと――。
「……っ、バカ……。」
かすれた声でそう呟き、未来の目からぽろぽろと涙がこぼれた。
「なんで、そんなこと言うの……私、騙してたのに……。」
「それでもいい。」
空は即答した。
「嘘から始まっても、今の気持ちは本物だろ?だったら、それでいい。」
未来は目を見開き、そして唇を震わせた。
何度も瞬きをしながら、涙を拭おうとしたけれど、次々にこぼれてくる。
「……ほんとに……いいの……?」
「いい。むしろ、そうしてくれてありがとう。」
未来は手で顔を隠すようにして、俯いた。
小さな声が震えながら漏れる。
「……私も……空のことが、好き。」
その声は涙に滲んでいたけれど、確かに届いた。
胸の奥で何かが弾けるように、温かいものが広がった。
「じゃあ……。」
空はもう一歩、近づいた。
未来との距離は、もう腕を伸ばせば届くほど。
「俺と、付き合ってください。」
未来は顔を上げた。
涙で濡れた頬に、笑顔が浮かんだ。
その笑顔は、今まで見たどんな笑顔よりも綺麗だった。
「……はい。私も空と……付き合いたい。」
その瞬間、空の視界が少し滲んだ。
心の奥が熱くなり、涙がこみ上げてくる。
「……ありがとう。」
その一言に、全ての想いを込めた。
未来は涙を拭いながら、笑った。
その笑顔は泣き笑いで、ぐしゃぐしゃなのに、どうしようもなく愛おしかった。
「……ねぇ、空。」
「ん?」
「これからは、秘密じゃなくて……ちゃんと恋人、だね。」
未来の言葉に、空は小さく笑って頷いた。
「そうだな。練習じゃなくて、本番だな。」
未来は照れたように頬を赤らめ、そして――にっこりと笑った。
その笑顔が、夕暮れよりも優しく、部屋の中をあたたかく包んだ。
秘密の恋は、嘘から始まり、本物へと変わった。
静かな資料室に、二人の小さな笑い声が響いた。
まるで、ずっと閉じ込められていた時間がようやく動き出したかのように。




