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恋愛秘密クラブ  作者: 白熊 猫


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20/23

第20話 クラスでの2人 その3

朝の教室は、いつもよりざわついていた。

テレビの話題、部活の予定、他愛のない笑い声――

いつもと変わらない風景のはずなのに、空にはどこか違って見えた。

未来がいる。

いつもの席で、クラスメイトと穏やかに話している。

その姿を見るだけで胸が締めつけられた。

――昨日、あんなことがあったばかりだ。

付き合ってみる?

あの言葉が、何度も何度も頭の中で反響する。

そして、自分が口にした「ごめん」という言葉。

あの瞬間の未来の顔を今でもはっきり覚えている。

笑って「またね」と言ってくれたけど、その笑顔の裏に隠れていた悲しさが、どうしても忘れられなかった。



空は席に座り、教科書を開いた。

でも、文字が全然頭に入ってこない。

ページをめくる指先が止まるたび、視線は自然と未来の方に向かってしまう。

未来はいつも通りに見える。

休み時間には、本を読んだり、友達と小さく談笑している。

その普通が、今はとても遠く感じた。

――俺だけが、昨日の続きを引きずってるのか。

そんな考えが頭をよぎる。

胸の奥がじわりと痛む。

「おい、相川。聞いてる?」

隣の席の男子が声をかけてきて、空は慌てて顔を上げた。

「あ、ああ。悪い、ちょっとぼーっとしてた。」

「どうした? お前、最近なんか様子変じゃね?」

「そうか?」

「うん。まさか、恋でもしてるとか?」

「なっ……!……そんなわけないだろ。」

思わず大きな声を出してしまい、数人の視線がこちらを向く。

未来も、一瞬こちらを見た。

その目が合った瞬間、心臓が跳ねた。

けれど、すぐに空は視線を逸らしてしまった。

彼女も同じように、何事もなかったかのように本に目を落とす。

――顔を合わせることすらできない。

そんな自分が情けなかった。



昼休み。

友人たちと弁当を囲みながらも、空の心はどこか上の空だった。

「なぁ相川、放課後、駅前のゲーセン寄ってかね?」

「あー、悪い。放課後はちょっと……。」

「またかよ。最近放課後いつもどこ行ってんの?」

「ん? まぁ、ちょっと野暮用。」

秘密クラブ。

その言葉が喉まで出かかったが、飲み込む。

誰にも言えない約束。

けれど、今はその約束すらも、壊れかけている気がした。



午後の授業も、集中できなかった。

黒板の文字がぼやけて見える。

ノートを取る手が止まるたび、心の中で問いかける。

――このまま、終わってしまうのか?

未来との関係が、あの「ごめん」で止まってしまったように思えた。

でも、それだけは嫌だった。

思い返せば、最初に未来と秘密クラブで出会ったあの日から、少しずつ、確かに心が変わっていった。

初めて名前を呼び合った日。

SNSでメッセージを送り合った日。

相合傘、手つなぎ、プレゼント交換――

全部が楽しくて、全部が新鮮で、全部が特別だった。

未来が笑うたびに、胸の奥が温かくなった。

時々見せるさまざまな表情に、どうしてか目が離せなかった。

放課後に過ごすその時間が、いつしか一日の中でいちばんの楽しみになっていた。

――それなのに、俺は。

未来の気持ちを踏みにじるようなことを言ってしまった。

冗談だからと逃げてしまったけど、本当は怖かっただけだ。

好きだと認めてしまえば、もう後戻りできない気がして。

恋の練習のはずだったのに、本気になってしまった自分が間違っているような気がして。

けれど、もうわかっている。

自分の心は、もう嘘をつけない。



放課後のチャイムが鳴る。

いつもなら自然と資料室へ向かう時間。

でも、今日は違った。

未来は席を立たず、友達と何か話していた。

その声がほんの少し聞こえる。

笑い声。

けれど、その笑顔の奥が、どこか無理をしているように見えた。

――やっぱり、ちゃんと話したい。

そう思った瞬間、空は立ち上がっていた。

机を出て、未来の席へ向かう。

数人のクラスメイトが驚いたように視線を向けた。 けれど、そんなのどうでもよかった。

未来がこちらに気づいて、少し目を丸くする。

「……どうしたの、相川くん?」

その声が少し緊張していた。

空は深呼吸をして、言葉を絞り出す。

「……いつもの場所で待ってる。」

それだけ言うのが精一杯だった。

でも、その一言に、自分の中のすべての想いを込めた。

未来は一瞬きょとんとした顔をしたあと、

ゆっくりと小さく頷いた。

「……うん、わかった。」

その表情は、どこかほっとしたようにも、少し切なげにも見えた。



席に戻ったあと、すぐに荷物を持って教室を出た。

心臓がまだバクバクしていた。

まわりの声が遠く感じる。

頭の中には、未来の「うん、わかった」という声だけが繰り返し響いていた。

――今日、ちゃんと伝えよう。

怖いけれど、逃げたくない。

恋の練習じゃなくて、本物の恋として、彼女に向き合いたい。

どんな返事をされるのかは怖くはあるけど。

窓の外では、放課後の光が少しずつ傾いていく。

あの資料室で、どんな顔をして未来に会えばいいのか。

なんと伝えたらいいのか。

それを考えるだけで、胸の奥が熱くなった。

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