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恋愛秘密クラブ  作者: 白熊 猫


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第18話 一緒に下校


放課後のチャイムが鳴り、学校での一日がゆっくりと終わる。

窓の外は少しだけ赤く染まり、廊下を吹き抜ける風が春の匂いを運んできていた。

今日も、秘密クラブの活動が終わった。

昨日――初めての放課後デートから一夜明けて、いつもと同じように図書室の資料室に集まったものの、どこか空気が違っていた。

言葉が出ない。

未来も、空も、どう話しかけていいか分からなかった。

机を挟んで向かい合っているのに、距離が遠く感じる。

いつもなら軽い冗談や雑談で埋まる沈黙が、今日はやけに重かった。

昨日のデートは楽しかった。

それは間違いない。

けれど、楽しすぎたのかもしれない。

今はどういう風に話をすればいいのかもわからなかった。

そして活動の終わり際、未来が静かに口を開いた。

「ねぇ、空。……今日は、一緒に帰らない?」

その一言に、心臓が跳ねた。

「い、いいのか?」

「うん。昨日も一緒に帰ったしね。」

未来の声はどこか優しく、どこか寂しげだった。

空は小さく頷いて、二人で部屋を出た。



夕暮れの廊下を歩く。

窓の外の光が少しずつ薄れていき、影が長く伸びていく。

昨日も並んで歩いたのに、久しぶりのような気がした。

ずっとぎこちない。

未来が口を開く。

「……昨日、楽しかったね。」

「う、うん。楽しかった。」

「……ちょっと、緊張したけど。」

「俺も。」

会話が続かない。

言葉を探しても、どれもそれっぽい言葉ばかりで、

心の中をうまく表せない。

校門を抜けると、夕陽が校庭をオレンジに染めていた。

風が少し強くなり、未来の髪がふわりと揺れる。

空はその横顔を見ながら、

言葉にならない何かを喉の奥に飲み込んだ。

学校を出てからの道のり。

いつもの帰り道なのに、まるで別世界のように感じた。

特に何かが違うわけではないのに、今の空気感が異質に感じさせた。

しばらく無言で歩いたあと、未来がぽつりと呟く。

「……ねぇ、空。」

「ん?」

「なんか、今日は静かだね。」

「そう……かも。」

未来が少しだけ苦笑する。

「昨日、あんなに話したのに。今日は全然。」

「……うん。なんか、変に意識しちゃって。上手く言葉が出てこない。」

「ふふっ。私も。変だよね。」

その笑い声に、ようやく空の緊張が少しだけほぐれた。

未来は相変わらず穏やかで、優しい。

でも今日は、その優しさが少し怖かった。

本当に、これが練習なのか?

心の奥で、そんな疑問が小さく鳴った。

駅までの道の途中、

未来が信号待ちの間に空をちらりと見上げた。

「ねぇ、空。」

「うん?」

「……やっぱり、何でもない。」

未来はそういうと寂しそうに微笑んだ。

その笑顔の奥に何かが隠れている気がして、空の胸が少し痛んだ。



駅前の交差点に差し掛かる。

人通りが多くなり、二人は歩幅を合わせながら歩いた。

沈黙。

けれど、先ほどよりは苦しくなかった。

ただ一緒に歩くだけで、心が少し落ち着く。

――このままずっと、こんな時間が続けばいいのに。

ふと、そんなことを思ってしまう。

でも、現実はそうもいかない。

秘密クラブの時間が終われば、教室ではただのクラスメイトに戻る。

そう思うと、少しだけ寂しくなった。

その時、空は思い切って口を開いた。

「なぁ、未来。」

「うん?」

「明日からさ……いつも通りに話そう。」

「いつも通り?」

「うん。教室でも、秘密クラブでも、もっと普通に。なんか今日みたいに気まずいのは、俺、嫌なんだ。」

未来が少し驚いたように目を見開く。

そして、すぐに優しく笑った。

「……うん。私もたくさん話したい。」

その言葉に、胸の奥が温かくなった。

未来の声が、夕暮れの雑踏の中に溶けていく。



やがて、二人は駅の改札をくぐった。

いつもならここで別れるはずだったが、

未来が小さく首を傾げて言った。

「ねぇ、今日は一緒に電車乗ってもいい?」

「いいけど?」

「……もっと話したいから。」

 その一言で、胸がどきりと鳴った。

「……ああ、いいよ。」

二人並んで電車に乗る。

空いた座席に並んで腰を下ろすと、

不思議なことに、教室よりも自然に話ができた。

他愛もないこと。

授業の話。

クラスの出来事。

昨日の映画の感想。

それらが途切れることなく続く。

未来が笑うたびに、

昨日のぎこちなさが少しずつ溶けていくようだった。

アナウンスが流れ、空の降りる駅が近づく。

「……じゃあ、俺、ここで。」

「うん。」

「また明日。」

「うん、またね。」

空は電車のドアが開くのを待ちながら、未来を見た。

彼女は微笑んで、軽く手を振ってくれた。

電車のドアが閉まる瞬間まで、その笑顔が目に焼きついて離れなかった。



改札を抜けて家までの帰り道、

空はひとりになっても、どこか胸が温かかった。

言葉にできない気持ちが胸の奥で広がっていく。

――きっと、明日は今日よりも話せる。

そんな予感がして、自然と笑みがこぼれた。

「……また明日、未来。」

静かな夜の空に、誰にも聞こえない小さな声で呟く。

それだけで、少し幸せな気分になった。


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