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恋愛秘密クラブ  作者: 白熊 猫


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第17話 デートプラン実践編


放課後。

チャイムが鳴り終わった教室で、空はそっと息を吐いた。

鞄を肩にかけて廊下へ出ると、昇降口の方から見慣れた髪が揺れる。

「空。」

振り向けば、未来が立っていた。

制服姿のまま、少し照れたように微笑んでいる。

「……一ノ瀬。」

「今日は放課後デートの実践だよね?」

「……そうだな。よろしく、未来。」

未来は楽しそうに頷いて、軽く鞄を揺らした。

その声の響きに、空の胸が少しだけ高鳴る。

放課後の教室で立てたあのプラン――映画を見て、カフェで食事して、駅まで歩いて帰る。

まさか本当にやることになるとは思っていなかった。

「じゃあ、行こっか。」

「お、おう。」

二人で校門を出ると、冷たい風が頬をかすめた。

少し冷たいけれど、どこか甘い匂いが混じっているように感じた。



映画館までは徒歩十五分。

学校帰りの制服姿で並んで歩くのが、なんだかくすぐったい。

未来は時々小さく笑いながら、空と同じ歩幅で歩いていた。

「こうやって歩くの、なんか変な感じだね。」

「変?」

「うん。いつもは秘密クラブの部屋だけだから。外で話すの、ちょっと新鮮。まあ、相合傘した時もあったけどね。」

「そうだな……なんか、普通の放課後って感じ。相合傘は恥ずかしかったけどさ。」

「ふふ、デートっぽいね。」

未来の言葉に、空は思わず目を逸らす。

デートっぽい――その響きがやけに心に残った。

映画館に着くと、思ったより人が多かった。

高校生やカップルがちらほらと列を作っている。

未来が少しだけ不安そうに空を見上げた。

「思ってたより、混んでるね。」

「うん。でも、せっかくだから見ようか。」

「そうだね。せっかく来たもんね。」

チケットを買い、ポップコーンをひとつだけシェアして席に座る。

上映が始まり、暗くなった館内に光が流れる。

恋愛映画は思っていたよりもコメディ寄りで、ところどころで未来が小さく笑う。

その笑い声が、意外と近くて、空は画面に集中できなかった。

ポップコーンを取ろうとした瞬間、指先が未来の手に軽く触れる。

その一瞬の接触に、心臓が跳ねた。

「……ごめん。」

「ううん。」

未来は小さく首を振り、照れたように微笑んだ。

それだけで、映画の内容がほとんど頭に入らなくなってしまった。



映画館を出ると、外はすっかり夕方になっていた。

街の明かりが点き始め、オレンジと紫の空が混ざり合う。

「面白かったね。」

未来が満足そうに言う。

「うん。笑えるところも多かったし。」

「途中で空くん、ポップコーン全然食べてなかったけど?」

「……あ、あれは、その……食べ過ぎたら悪いなって思って。」

「ふふっ。本当に?」

未来が楽しそうに笑う。

その笑顔に、つられて空も笑ってしまう。

――うまくいかない部分もあるけど、それも悪くないっと思った。

映画のあとは、プラン通りカフェへ行く。

映画館の近くにある落ち着いた喫茶店で、木目調のテーブルと静かなBGMが流れていた。

二人並んで席に座ると、未来がメニューを開きながら言う。

「プラン通りだけど、こうやってデートするのも楽しいね。」

「デートって……まあ、楽しいのには同意だけど。」

「こうやって一緒にご飯食べるの初めてだね?」

そう言われると、途端に緊張する。

「確かにクッキーは一緒に食べたけど、一緒にご飯を食べに行ったことはなかったよな。」

未来が注文したのはホットティーとチーズケーキ。

空はコーヒーとサンドイッチ。

「甘いもの、好きなんだな。」

「うん。頑張った日のご褒美って感じ。」

「今日は、頑張った日?」

「うん。だって、初デートだよ?」

未来が少し照れたようにしながらもいたずらっぽく笑う。

その言葉に、心の奥がほんのり熱くなる。

「俺だって、初めてさ。」

頬をかきながら照れながら、言った。

談笑しながら食事をしていると、想像していたよりも自然に時間が流れた。

少し沈黙があっても気まずくなくて、

時折目が合うと、どちらともなく笑い合える。

「……なんか、不思議だな。」

未来がカップを置いて、ぽつりと呟く。

「いつもの恋の練習なのに、今日は本当に恋人みたい。」

その言葉が胸に刺さる。

空は慌てて笑いながら言葉を返した。

「……それだけ、練習が上達したってことかも。」

「うん、かもね。」

未来の微笑みはどこか寂しげにも見えて、空はそれ以上何も言えなかった。

店を出ると、空は自然と未来の歩幅に合わせて歩いた。

街灯がぽつぽつと灯り始め、薄暗い道に二人の影が並ぶ。

「駅まで歩くのも、プランの通りだね。」

「うん。……ちゃんと実践してる。」

「でも、想像とちょっと違ったかも。」

「え?」

「もっと気まずくなると思ってたけど、すごく楽しかった。」

未来の言葉に、空は顔を向ける。

夕暮れの光が彼女の頬を染めていて、どこか大人っぽく見えた。

「俺も……楽しかったよ。」

自然と口をついて出た言葉に、未来がふわりと笑う。

その笑顔があまりにも柔らかくて、

胸の奥で何かが溶けていくようだった。

駅前に着く頃には、すっかり夜の気配が濃くなっていた。

人通りも少なくなり、遠くで電車の音が聞こえる。

「もう、こんな時間か。」

空が時計を見て言うと、未来が頷く。

「そろそろ帰らなきゃね。……楽しかった。」

「うん。俺も。」

未来が鞄を持ち直して、少し微笑んだ。

「こういう放課後も楽しいね。」

「そうだな。悪くないな。」

しばしの沈黙。

別れの言葉が出てこない。

ほんの少し、名残惜しさが胸に残る。

せっかくだし、最寄の駅まで一緒に帰らないか?

という言葉が上手く言い出せなかった。

「今日は楽しかったよ。じゃあ、また秘密クラブでね。」

「……ああ。またな。」

未来は軽く手を振って、駅のホームに帰って行った。

その背中が人混みに消えるまで、空は未来のことを眺めていた。

さっきまで隣にいた温もりが、まだ手のひらに残っている気がした。

デートなんて大げさなものじゃない。

けれど、心が少しだけ浮き立っている。

楽しかった。

笑い合えた。

彼女の笑顔が、頭から離れない。

「……もし、未来と付き合ったら……こんな感じなのかな。」

思わず、独り言のように呟く。

その瞬間、自分で自分に気づいて小さくため息をついた。

「いや……これは、秘密クラブの活動だろ。」

言葉にしても、胸の奥の温かさは消えない。

小さなため息が夜の空に溶けていく。

――恋の練習のはずなのに。

どうして、こんなにも心が満たされるんだろう。

そんな思いを抱えたまま、空は家に帰った。


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