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恋愛秘密クラブ  作者: 白熊 猫


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15/22

第15話 プレゼント交換

放課後の資料室。

窓の外には淡い夕暮れが差し込んでいた。

外の空気と違い、この小さな部屋の中だけは不思議と穏やかで、静かだった。

机の上には二つの紙袋。

それが、今日の活動道具だ。

「次の活動はね、プレゼント交換をしようと思うの。」

未来がそう言ったのは数日前のメッセージだった。

恋人同士なら、クリスマスとか誕生日にプレゼントを渡したりするでしょ?

その一文を読んだとき、空の胸が不思議とくすぐったくなった。

未来と恋人みたいなことをするたびに、胸の奥で小さく波紋が広がる。

そして今日が、その「プレゼント交換」の日だ。



「じゃあ、どっちから渡す?」

未来が柔らかく笑う。

空は少し迷った末に、右手に持っていた小さな紙袋を差し出した。

「俺から、いいかな。」

「うん、もちろん。」

未来は両手で丁寧に受け取り、少しだけ息を整えるように深呼吸した。

白い紙袋の中には、猫のキーホルダーが入っている。

小さなぬいぐるみのような質感で、表情はどこか穏やかだ。

「……開けてもいい?」

「うん。」

未来が袋を開け、キーホルダーを取り出す。

その瞬間、彼女の顔がぱっと明るくなった。

「……わあ、かわいい。」

未来の声が少し弾んだ。

その一言だけで、空はほっとした。

「猫、好きかなって思って。」

「うん、好き。すごくかわいい。どうしてこれにしたの?」

未来がそう尋ねてきて、空は少し恥ずかしそうに頭をかいた。

「えっと……なんか、未来に似てる気がして。いつも落ち着いてて、でも優しそうな感じが……。」

口にしてから、急に恥ずかしくなって、空は慌てて言葉を止めた。

未来が少し驚いたように目を瞬かせる。

「……似てる?」

「い、いや、その……なんとなくだよ。あはは……。」

空がごまかすように笑うと、未来はくすっと笑った。

「そう言ってもらえるの、ちょっと嬉しいかも。」

そう言って、キーホルダーを大事そうに手のひらで転がす。

その仕草がやけに柔らかくて、空の胸の奥にあたたかいものが灯った。

「じゃあ、次は私の番だね。」

未来はそう言って、自分の紙袋を空の前に差し出した。

「開けてみて。」

「うん。」

空は丁寧に袋を開けた。

中から出てきたのは、落ち着いたネイビー色のペンケースだった。

革調の素材で、手触りがよく、シンプルなのに上品なデザインだった。

「これ……すごくいいやつじゃない?」

「ううん、ちゃんと1000円以内だよ。」

未来が少し笑う。

「でも、どうしてペンケースを?」

そう尋ねると、未来は少しだけ照れくさそうに目を逸らした。

「前に勉強会をしたとき、空のペンケース、すごく使い込まれてたから。」

「え?」

「チャックのところ、少し壊れかけてたし、インクの跡もついてて……。だから、新しいのがあったらいいなって思って。」

空は思わず黙り込んだ。

――そんなところまで、見てくれてたんだ。

ただ一緒に勉強してただけの時間の中で、自分の持ち物なんて気にしてなかった。

けれど未来は、そんな細かいところまでちゃんと見ていた。

「……ありがとう。すごく嬉しい。」

空は心からそう言うと、未来は少し安心したように微笑む。

「よかった。似合うと思ったんだ。」

彼女の声は穏やかで、まるで雪のように静かに心に降り積もる。



二人の間に、ほっとした沈黙が落ちた。

窓の外には夕陽が沈み、柔らかな光が机の上を淡く照らしている。

それぞれのプレゼントが仲良く並んでいた。

「空、キーホルダー、つけてもいい?」

未来がそう言って、自分の鞄を手に取る。

その鞄には、今まで何も飾りがついていなかった。

シンプルで清楚な印象の鞄の持ち手に、未来はそっと猫のキーホルダーをつける。

「……どうかな?」

未来が少し照れたように鞄を見せた。

小さな猫がゆらゆらと揺れて、光を受けてきらりと反射する。

「似合ってるよ。」

空は自然にそう口にしていた。

未来は目を細めて笑い、その笑顔を見た瞬間、胸が少し痛くなった。

「でも、未来は鞄にはそういうのつけないイメージだったから、つけてくれると思わなかったな。」

「うーん。普段はつけないけど、せっかく空からもらったし、つけたいなって。」

未来はそう言って、キーホルダーをつんと指でつついた。

渡したものが気に入ってもらえたような気がして、ほっとするととともに嬉しくなった。

「ねえ、空。」

「うん?」

「こうしてプレゼント交換するの、なんか不思議だね。」

「そうだな。……でも、ちょっとだけ嬉しい。」

「私も。」

未来がゆっくりと頷く。

机の上に並んだ二つの贈り物。

その光景を眺めながら、空は静かに息をついた。

恋人ごっこのはずなのに、心の奥では違う感情が確かに芽生えている。

誰かのことを思って贈り物を選ぶ――それが、こんなにも難しくて、こんなにも楽しいものだなんて初めて知った。

「そういえば、プレゼント選ぶの大変じゃなかった?」

未来が問いかける。

空は少し笑ってうなずいた。

「正直、めちゃくちゃ悩んだ。何を渡したら喜んでもらえるのか、全然わかんなくて。」

「ふふっ。そういうの、初めて?」

「……うん。女の子にプレゼントなんて渡したことなかったから。」

未来はその言葉に、少しだけ頬を染めた。

「じゃあ、私が初めて?」

「……そう、かな。」

空がうなずくと、未来は少しだけ嬉しそうに笑った。

「なんか、嬉しい。」

その小さな声は、まるで本物の恋人のようだった。 空の胸がまた少し熱くなる。



「今日の活動、楽しかったね。」

「うん。……すごく。」

未来は猫のキーホルダーを軽く指で弾いた。

「これ、ずっと大事にするね。」

その言葉が、空の胸にじんわりと響く。

「……なんか、もったいないな。」

「なにが?」

「その言葉。練習にしては、もったいないからさ。」

未来は一瞬、言葉を止めた。

そして、ほんの少しだけ、切なげに微笑んだ。

「――じゃあ、本気で言ってもいい?」

その言葉に、空の喉が鳴った。

未来は少しだけ視線を落としながら、そっと呟く。

「ありがとう、空。すごく嬉しいよ。」

その瞬間、時間が止まったように感じた。

その笑顔があまりに柔らかくて、空は返す言葉を失う。

心臓の音が、静かな部屋の中に響く。



チャイムが鳴った。

下校を知らせる音で、現実に引き戻される。

未来は名残惜しそうに鞄を持ち上げた。

小さな猫のキーホルダーが、光を受けてゆらゆらと揺れる。

「じゃあ、また明日ね、空。」

「うん。また明日。」

未来が資料室を出て行く。

その背中を見送りながら、空は机の上のペンケースを握りしめた。

革の感触が指に残るたび、未来の言葉が蘇る。

――ちゃんと見てくれていた。

それだけのことが、ただただ嬉しかった。

秘密クラブの活動は今日も終わった。

けれど、空の心の中では、何かが静かに始まりつつあった。

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