第12話 クラスでの2人 その2
翌朝。
いつもと同じはずの教室が、なぜか少し違って見えた。
机の並びも、ざわめきも、朝の光の入り方も、昨日と変わらない。
だけど――俺の胸の中だけが、昨日と同じじゃなかった。
昨日、秘密クラブで未来に告白した。
しかも、未来からも告白された。
もちろん練習であり、演技だ。
そういう設定だったのはわかってはいる。
それでも、あの好きという言葉を思い出すだけで、胸がざわつく。
黒板の前で髪を耳にかけながら、クラスメイトと何か話している未来の姿が目に入る。
その顔を見た瞬間、昨日の彼女の照れた顔が脳裏に浮かんだ。
……やばい。なんか、顔見づらいな。
目を逸らす。
けれど、気になる。
気を抜くとまた視線が勝手に未来を追ってしまう。
たぶん俺、めちゃくちゃ挙動不審になっている気がする。
「おい、空、どうした? なんか朝からボーッとしてさ。」
友達に声をかけられ、慌てて振り向く。
「いや、なんでもない。」
「寝不足か? 昨日勉強してたとか?」
「うん、まあ……そんな感じ。」
まさか昨日告白の練習しててそれが頭から離れないとは言えない。
授業が始まってから、未来の方を見ないように教科書を開いた。
でも、ページの文字が目に入ってこない。
代わりに頭の中で何度も再生される。
――私は、ずっと前から空のことが好きだよ。
あの声。
あの表情。
嘘なのはわかっているのに、どうしてこんなに気になってしまうんだろう。
◇
1時間目が終わったあとも、集中できなかった。
休み時間。未来は女子のグループに混ざって笑っている。
いつもと変わらない、日常風景。
その自然な姿を見ていると、昨日の彼女がまるで夢の中の出来事だったように思えてくる。
けれど、不意に未来がこちらを向いたため、目が、合った。
一瞬だけだったのに、時間が止まったように感じた。
未来は何事もなかったように、すぐに視線を逸らした。
胸が、どきりと跳ねる。
見つめていたのを見抜かれていないといいな。
慌ててノートをめくるふりをして、下を向く。
けど、耳の奥が熱い。
やばい、顔に出てるかもしれない。
◇
昼休み。
弁当を食べながら、またも未来の姿を目で追ってしまう。
彼女は女子たちと机を寄せて、お弁当を広げていた。
箸で卵焼きをつまみながら、楽しそうに笑っている。
あんなふうに、普通に笑ってるのにな⋯⋯。
昨日の「好き」と言った時の、恥ずかしそうな表情とはまるで違う。
教室では、あくまでいつも通りだ。
それが少し、物足りなく感じた。
……俺、何を期待してるんだ?
自分で自分にツッコミを入れたくなる。
未来と特別な関係なんてあるわけではない。
秘密クラブの活動仲間――それ以上でも以下でもないはずだ。
でも、昨日のあれを思い出すたび、心が変に落ち着かなくなる。
胸の奥がくすぐったいような、苦しいような。
たぶんこれが意識するってことなんだろう。
◇
午後の授業。
先生が問題を板書しているあいだ、ふと横を見る。
窓際の席で、未来がペンをくるくる回していた。
真剣にノートを取っている姿を見ていると、昨日よりもずっと大人っぽく見える。
気づけば、また目で追っていた。
すると、また――目が合った
今度は未来も、ほんの一瞬だけ視線を止めた。
そのまま、ふっと小さく微笑んだように見えた。
空は慌てて前を向き、頭の中で警報がなる。
やばい、見すぎてる!
完全に気づかれた!
ノートにペンを走らせるふりをしながら、頭の中はもう真っ白だ。
さっきの笑みは何だったんだろう。
偶然だったのか、わざとだったのか。
それを考えるだけで、また心臓が落ち着かなくなる。
◇
放課後。
チャイムが鳴り、クラスメイトたちがぞろぞろと教室を出ていく。
友人たちに軽く手を振り、空も鞄を持って立ち上がった。
未来はまだ席に残っていて、教科書を閉じているところだった。
周りに人が少なくなったせいか、自然と視線がそちらに引き寄せられる。
……昨日までと同じなのに、なんか違う。
教室では「ただのクラスメイト」。
でも、秘密クラブでは――笑い合って、向き合って、そして昨日は練習とはいえ告白までした。
その落差が、少し切なかった。
言葉を交わさないこの距離が、もどかしい。
未来がふと顔を上げ、こちらを見る。
目が合う。
けれど、今度はどちらもすぐに逸らさなかった。
ほんの数秒。
その沈黙がやけに長く感じられた。
未来が、静かに微笑む。
小さくうなずいてから、先に教室を出ていった。
空はその背中を目で追いながら、深呼吸をした。
「……さて、行くか。」
秘密クラブ。
あの小さな資料室。
そこに行けば、またあの未来がいる。
きっと昨日のことなんて、何でもないように話すだろう。
それが、少し安心で――そして、少しだけ残念だった。
鞄を肩にかけて、空はゆっくりと教室を出た。
夕陽が差し込む廊下を歩きながら、胸の奥が静かに高鳴る。
今日も……いつも通り、のはず、だよな。
でも、いつも通りという言葉が、今はなぜか頼りなく感じた。
扉の向こうに待つ未来を思い浮かべながら、空は小さく息を整えた。
そして、秘密クラブの扉の前で――ノブに手をかける直前、心臓の音がまたひとつ、強く鳴った。
そろそろ毎日投稿がきつくなってきたので、次からは週1更新にします。
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