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恋愛秘密クラブ  作者: 白熊 猫


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10/23

第10話 テスト勉強

放課後、いつものように資料室の扉を開けたとき、空は少しだけ拍子抜けした。

いつもなら、未来が何かしらの恋の練習を企んでいる。

だけど、今日の机の上にはスマホも、占い本も、特別な道具もなかった。

代わりに置かれていたのは、教科書とノート、そしてシャーペンだけ。

「……今日は勉強会?」

「うん」

未来はにこっと笑って言った。

「テスト近いでしょ? だから今日の活動は、一緒にテスト勉強しようかなって。」

「恋の練習じゃなくて?」

「勉強も、ある意味支え合う練習ってことでどうかな?」

未来は軽い口調で言って、ペンをくるくると回した。

なんだか肩透かしを食らったような気分だ。

でも確かに、期末テストは来週に迫っている。

空はため息をつきながらも、席に着いた。

「……まあ、もうすぐテストがあるから、勉強しないといけないよな。」

「そう、そう。じゃあ、数学からやろっか。」

「未来、数学得意なの?」

「うん。公式覚えればなんとかなるタイプ。」

「俺は、問題読む時点で眠くなるタイプだな。」

「じゃあ私が眠気防止係だね。」

未来が笑う。

空は苦笑しながら教科書を開いた。

たしかに勉強は得意じゃないけど、未来と一緒にやるなら悪くない。

そんな気がした。



資料室の中は、今日も静かだった。

窓の外からは、吹奏楽部の練習の音がかすかに聞こえる。

鉛筆の音と紙をめくる音だけが、二人の間に流れていた。

「この問題、どうやって解くの?」

そう質問すると、未来は首を傾げて、問題文をのぞき込んだ。

「これか。えっと……まずaとbを代入して……。」

「代入して?」

「で、整理して……。」

未来の顔が近い。

同じノートを覗き込むから仕方ないのだけど、

息を吸うたびに、ふわっとシャンプーの香りがした。

手元の文字が、少しかすんで見える。

「……で、あとは計算すれば答えが出るよ。」

「なるほどね。」

空は頷きながらも、少し動揺する。

なんだこれ、ただの勉強なのに……いつもと違う。

友達と一緒に勉強することなんて、何度もあった。

でも、未来といると、それとは違う何かを感じる。

静けさが心地よいのに、妙に落ち着かない。

それが何なのか、言葉にできなかった。

「ねえ空、次は私から質問していい?」

「いいよ。」

「えっとね……この英文の“have been”って、どんな意味だっけ?」

「あー、それはずっと〜しているってやつ。」

「ずっとかー。」

 未来はペンをくるくる回しながら、小さくつぶやいた。

「ずっとって、なんかいいね。」

「勉強の話だぞ?」

「わかってるけど。なんか、響きが好きなの。」

「……変なとこで感性豊かだな。」

「えへへ、褒め言葉として受け取っとく。」

そう言って未来は笑う。

その笑顔を見て、空は一瞬、視線を落とした。

胸の奥が、ふわりとくすぐったくなる。

ずっと、その言葉がなぜか心に残った。



1時間ほど勉強を続けて、ふたりは一息つく。

未来がペットボトルのお茶を飲みながら、ぼんやりと窓の外を見た。

夕方の光が、少しずつ赤くなっていく。

「ねえ、空。」

「ん?」

「勉強ってさ、ひとりだと続かないけど、誰かと一緒だと頑張れるね。」

「そうかも。集中力が切れにくい気がする。」

「空は家でもこうやって誰かとやったりするの?」

「いや、だいたい一人かな。友達とやると、結局話しちゃうし。」

「……じゃあ、私とやるときも話してもいいね。」

「え?」

「だって、恋の練習だから。恋人とテスト勉強するための練習みたいなもんだよね。」

「それは……そうなのか?」

未来は軽く笑う。

その表情に、空もつられて笑った。

こうして一緒に笑うこと自体が、いつの間にか特別に感じるようになっていた。

友達とは違う。

けど、恋人でもない。

その中間にある、あいまいな関係。

でも、不思議と嫌ではなかった。

「空って、理科得意だよね?」

「うん、まあ、好きな方。」

「じゃあ教えて。植物の光合成の仕組み。」

「そこか。えっとね……。」

空が説明を始めると、未来はうなずきながらメモを取る。

真剣な顔で、時々眉を寄せる仕草。

その様子が、思ったよりもずっとかわいく見えて、

空はふと、自分が未来のノートよりも顔を見ていることに気づいた。

……なんで見てんだ、俺。

慌ててノートに視線を戻す。

でも一度意識してしまうと、気になって仕方がない。

まるで自分の心だけが、教室の外に飛び出してしまったみたいだった。

「空?」

「え?」

「説明、途中で止まってるよ?」

「あ、ああ、ごめん。えっと……その後、二酸化炭素を吸収して……。」

「うんうん。」

未来が微笑む。

その笑顔に、心が揺れる。

何かが、少しずつ変わっている気がした。



気づけば、あっという間に2時間が経っていた。

資料室の時計が、もう帰りの時間を告げている。

「そろそろ終わりにしよっか。」

「そうだな。」

「今日は勉強会だったけど、たまにはいいよね?」

「まあ、たまにはいいんじゃないか?」

「うん。……こうやって一緒に勉強を頑張るのも悪くないよね。」

未来がそう言って、少しだけ柔らかく笑った。

空はその言葉を聞いて、胸の中がふっと温かくなる。

……悪くない、か。

確かに、ただ勉強していただけなのに、心地よい時間だった。

未来と隣でノートを広げて、言葉を交わして、笑い合って。

それだけで、放課後が少し特別に感じる。

友達と勉強しているときとは、明らかに違う。

何が違うのかはわからない。

でも――違う。

その“違い”を意識した瞬間、胸の奥が少しざわついた。

もやもやして、息苦しくて、だけどどこか心地いい。

その正体を、空はまだ知らなかった。



帰り支度をしながら、未来が小さく言った。

「ねえ、空。また一緒に勉強しよ。」

「え?」

「だって、今日、意外と集中できたし。……空のおかげで。」

「俺の?」

「うん。なんか落ち着くんだよね、空といると。」

その言葉に、心臓が一瞬止まったような気がした。

落ち着く――たったそれだけの言葉なのに、胸の奥がじんわり熱くなる。

「……じゃあ、またやろう。テスト前に。」

「約束。」

未来がにっこり笑う。。

空もつられて笑いながら、小さくうなずいた。

今日の活動はテスト勉強だった。

けれど、その中に小さな恋の練習があったような気がした。 

空は気づかないふりをしたまま、机の上のノートを閉じた。

また次の放課後、同じように未来と並んで勉強する光景を――なぜか心のどこかで、楽しみにしている自分がいた。


今日はもう1話投稿予定です

楽しみにお待ちください!

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