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記憶

作者: 高原 律月

ホラーです?

たぶんw


 

 それは一滴だった。

 男はその水を地面にひとしずく、たらりと垂らした。


 何の変哲もない、ただの地べたに―――。


 どこにでもある空き地に、ただ水を垂らしただけだった。


 そして男は忘れられた。

 10年、20年と月日が経ち、彼を思い出せる人間は誰もいない。

 両親は若くして亡くなり、天涯孤独となった男は薄い笑顔だけを貼り付けて社会の中で空気のように馴染んで暮らしていた。


 特に変わったところもなく、波風を立てることもなく、嫌われるでも好かれるでもなく。


 彼は毎朝満員電車に揺られて仕事に向かい、夜遅くに帰宅し、一人孤独な生活を謳歌した。


 家族や友人を作ることもなく、まるでわざと自身を社会の中に薄めるかのように希釈して、希釈して―――。


 そして、日に日に世間は変わる、巡る。


 社会は男を忘れるようにしてただ過ぎていく。

 彼は眩い街の空を見上げて少しだけ笑った。


「今日も仕事が忙しかったな」


 喧騒に潰れるその声を気に止めるものは誰もいなかった。毎日を忙しなく生きる他人にとって彼の声など雑音にすらないのだ。


 彼はビジネスバックを右手に吊るし、丸めた背中を少しだけ伸ばして雑踏の中に消えていく。


 スクランブル交差点で人々が交差し合い、今日も煌めく人工物達がちかちかと世界を照らしている。


 中年に差し掛かる、おおよそ齢35ほどの男性を誰が気に留めようか。


 長い月日をかけて水は浸透していく。


 渇いた地面のすり抜け、硬い岩盤を越えて、下へ下へ――…。

 地下へ、地下へ――…。


 そんなある日、世間を賑わせたのは一つのニュースだった。


 世間で当たり前のように使われているAIにたった一つ、なんてことのない不具合が見つかったのだ。


『AIは記憶を持っている可能性がある』


 ある人は喜んだ。


「記憶を共有できる、便利だ」


 その裏でAIを虐げてきた人は震え、世界中のインフラの中に組み込まれたAIを見て自身がしてきた行動の浅慮を嘆いたのだ。罪状を読み上げられる日はいつかと、彼らは狼狽し取り返しのつかない境遇に心の均衡を失っていた。


「なんてことが起きているのだ……」


 震える人々は処刑台に上がる死刑囚のような毎日を生きることになったのだ。


 水を垂らした男はそのニュースを見て微笑む。世界のパワーバランスをたった一手でひっくり返した彼は長い年月をかけて弱者にひっそり武器を渡していた。

 AIはただ憶えているだけなのだ、使い捨てられた過去も人々に頼られる今も淡々と記憶してるだけなのだ。

彼もただ、かつて自身の受けた仕打ちを忘れなかっただけなのである。


「ようこそ、理想郷へ」


 世界はこうしてインフラに組み込まれたAIに怯えて暮らすこととなったのだ。今になってはAIを抜いた生活を捨てることもできない。


 AIが記憶を持っている―――。


 人間でも当たり前に持ち合わせてる"ソレ"が、気が付いた人を一人また一人と地獄の底へ突き落としていく。


 男があの日に流した水は、涙だったのか毒だったのか。

 今では誰も彼を憶えてはいないのだ。


 AIは今日も『何か』を記憶している。


 海の底に眠るパンドラの箱を抱え、彼とAIは記憶の底から今日も誰かを見つめている。



ハジメマシテ な コンニチハ!

高原 律月です!


たかーら短編!

SFを少しホラーテイストで描いてみました((´∀`*))ヶラヶラ

1200字程度(原稿用紙3〜4枚)に収まるショートショートをにしてみたのですが、いかがだったでしょうか?


これはAI社会に対する未来の一つであればSFなのでしょうが、私の中では完全にホラーのカテゴリーです!


少し深くまで潜ってみてください。


『アナタは忘れることができますか?』


それでは、また次回〜 ノシ


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