ソール 8
ソールのエピソードは最後になります。
青い青い空と海…
その境界線にアウローラの乗った船が小さく見える……
ソールは
遠くの船を見つめながら昨日の事を思い出していた…
「やっと会える…やっとよ……あぁ…ドキドキする……絶対失敗しちゃダメ!…しっかり感情を抑えなきゃ!!今以上嫌われたら婚約が無しになっちゃう……完璧な婚約者じゃなきゃ……完璧じゃなきゃ…」
最後に二人でお茶でも飲もうと
出立の前日に時間を取ってもらった…
緊張からか…喜びからか…
アウローラはブツブツ言いながら部屋の中をウロウロしている。
しばらく会えなくなるのに…
アウローラの頭の中はエピオテスの事でいっぱいだ……
五年前からずっと……
ソールは
小さくなった船を見送りながら
自分に[感情を抑える魔法]をかける……
どんな感情を抑え込んだのかは、よく判らない。
****************
アウローラが留学しても僕の日常はさして変わらなかった……
六歳になった双子の妹達が厄介になってきたので、子守りをするのが楽しかったし♪
魔法の訓練も順調に終えて
「実力はアウローラより上じゃないか?」などと兄様達は言う…
「そうは思えないケド…」
謙遜じゃなく本当にそう思う。
側に居なくても、僕は相変わらずアウローラの背中を追いかけてる。
ザハブ叔父様やカミールと一緒に、竜の里を訪ねたりもした。
(卵関連の騒動の謝罪を兼ねて)
そうして、たまにアウローラに手紙を書く…
こんな事ができる様になった…
こんな事をマスターした…
アウローラと同じ事ができる様になったと…
僕がどれだけ成長したのかを書き連ねる。
勿論こちらの家族の近況、国の様子なども少し添えて。
返事には
さすがソールね。
ソールは凄いわね。
ソールなら出来ると思ったわ。
かつて、手を握り…笑顔を向けて掛けられた言葉が
便箋の上に綴られている。
手紙を読むたび…何かの感情が燻る…
その感情が大きくなるのが嫌で、また自身に[感情を抑える魔法]をかける。
そうしてアウローラが留学して三年程…
僕は十四歳になり
最近、する事がなくなった…
王都に有る本は殆ど全部、読んでしまった。
九歳になった双子は
随分前から手が掛からなくなったし…
何より女子なので関わりが減って来た。
来年、十歳になって魔法の訓練が始まったら
相手をしてやれるから、楽しいだろうけど……
まぁ、来年の話しだよね。
十九歳になったカミールは、以前交わした契約の為に
竜の里で過ごしている。
二十一歳のアバンサールは、王太子としての公務と来年に予定している結婚の準備に忙しいし……
自分の宮の庭園で、ガゼボに作り付けられているベンチに寝転がりながら…
退屈と戦っている。
「つまんないなぁ〜」
「最近、気力が薄れてますねぇ」
そう話しかけてきたのは、十歳の頃に僕の専属侍従になったムシュレだ。
彼は[海の民]の一族で…
王族には最低でも一人は、結界・防御魔法が得意な[海の民]の一族の出の者が侍従に着く。
「騎士団の訓練所に行って剣術でもしますか?」
もう一人の侍従、アセロがそう提案してきた。
アセロの母親はウナヴォルタ国出身で、高い治癒魔法の特性を受け継いでいる。
どちらも長兄のアバンサールと同年代だ。
「うーーん……剣術もなぁ〜、みんな本気出してくれないからなぁ。」
「そんな事ないですよ!みんな本気で全力でやってますよ!ソール様が強すぎるんですよ!自分が本気出してないからって、周りも皆んなそうだと思わないで下さい!」
ムシュレに怒られた…
続いてアセロが
「まぁ、ソール様が本気出しても大丈夫な相手なんて、騎士団長や副団長クラスじゃないと無理でしょ。」
「はぁ〜!つまんない!」
「そー言えば。」
アセロが思い出した様に話し出した…
「アウローラ様の婚約者のエピオテス様は大層お強いそうですね。」
「そーなの?…誰情報?」
起き上がり、ベンチに片膝を立てて座り直して尋ねる。
「アウローラ様付きの従者からの定期連絡から口伝えで、広まった話しです。
王宮の皆んながアウローラ様のファンですからねぇ。彼方の国でのご様子を心配してるんですよぉ。
昨年、学園に入学した年の剣術大会にエピオテス様が参加した際、アウローラ様が刺繍を施した腕章を贈られたと。大変美しい刺繍で仕上げたとか。流石ですねぇ。
エピオテス様は見事に優勝されたそうで、とても洗練された強さだったそうですよ。」
「ふーん…」
エピオテス・マクラーン
記憶にあるのは、姉様が夢中で眺めていた絵姿と
顔合わせで来日して来た時…
深緑の髪にペリドットの様な黄緑の瞳
アウローラの心を掴んで離さない男…
ガゼボの向こうに目を向けると、一面の鈴蘭がリンリン鳴っている…
庭いっぱいに咲いているのを、いつか見せようと…魔法で一年中咲き誇って。
僕の記憶の中のアウローラは十三歳のまま…
リンリンリンリンリンリンリンリン……
「よし!ウナヴォルタ国に行こう♪」
「「はい?」」
侍従二人は目を丸くして素っ頓狂な声を出した。
「姉様の婚約者に手合わせを申し込もう♪」
「「?!」」
ここまでがストックで
次回からの新エピソードを書き勧めているので、間が開きます。




