寝床
ミヤトは、普段はダイニングのテーブルやキッチンに居て、夜はリビングの隅に丸くなって眠っている。
まるで、リビングの隅に、私には見えないケージでもあるように。
そこだけが自分の身の置き場みたいに。
だから、そんなミヤトが
「お部屋、借りてもいいですか?」
と自分から聞いてきたときには心底驚いた。
此奴がうちへ来て3週間。ずっと「ここがお前の部屋だよ」
と小部屋を案内していた。
クローゼットと、机と空き本棚とベッド。
子どもの勉強部屋兼寝室として、必要最低限のものはある。
でも、うちの黒い猫はそのたびにソワソワして、
「自分の部屋とか、落ち着かない」
なんて言って、リビングの隅で丸くなっていた。
教科書やノートは本棚とか机の上に置くものだと教えたら、それには素直に応じたけれど。
寝床は使い慣れた寝袋が安心するようだった。じっと身を丸くして、こちらに背を向けて。気配を消して眠るのだ。
でもある日、風邪を引いて高熱を出したミヤトを、無理やりにベッドへ押し込んだ。
「ごめんなさい、熱なんかだして」
謝り続けるミヤト。
でも、耳を垂らして背を丸め、怯えながらシャーッと威嚇する黒い猫がそこに居た。
何をそんなに警戒しているんだ、全く。
氷枕を作ってやると、
目を瞠って、しばらく頭をもぞもぞして、その冷たさと氷のゴツゴツした感触を探っていた。
白粥に少し鰹出汁をかけて食べさせてやると
「うまい……」
と言って、うにゃうにゃ笹鳴きながら食べていた。
やはり、猫に鰹節は鉄板らしい。
そうして此奴が風邪から回復した後。
「やっぱり、お部屋借りてもいいですか?」
と来たもんだ。
この猫はやっと、ベッドの良さを知ったらしい。