09
翌日、七緒は近くのコンビニで和菓子を買ってから、稲荷の祠へと向かった。
稲荷の好みがよく分からないので少し迷ったが、シンプルなものの方が無難だろうと三色団子を選んだ。
祠への道を歩きながら、七緒は空を見上げる。ここ数日は晴れていたが、今日は薄雲が空全体を覆っている。
(午後から雨降るんだっけ……)
あまり長居はできないなと思う一方で、何ができるだろうかと考える。
(苺を増やすスペースは作ったけど、苗とかどうするんだろう?)
秋に植えたという最初の苗を何処から調達してきたのかは分からないが、同じ所から貰えるのだろうか。
(それとも種から……?)
苺の種が売られているかは知らないが、どちらにしろ稲荷は金銭を持っていないだろうから買うことはできない筈だ。
(いや、お賽銭……?)
祠に賽銭箱はないが、誰かが小銭などをお供えした可能性はあるかもしれない。
あれこれと想像を膨らませている間に祠へと着いており、七緒は、取り敢えず、と買ってきた三色団子を祠の中に置いた。
「――あら」
後ろから女性の声が聞こえてきて七緒は振り返る。偶々通り掛ったのだろう、年配の女性が七緒の方へと寄ってきた。
「もしかして、武藤さんのお孫さん?」
武藤さん、と七緒は心の中で呟く。全く違う苗字だし、親戚にも武藤という苗字の親戚はいないが、最近何処かで聞いた苗字だ。
「あ、いえ、相模と言います……」
そう返しながら、女性の姿にもどこか既視感があるような気がして、最近の記憶を掘り返す。
――親戚から苺が届いたんですよ。
脳裏にそんな声が聞こえた気がして七緒ははっとする。
(あ、この人、苺をお裾分けしてた……)
女性の方は七緒が武藤ではないと知りばつが悪そうな顔をした。
「不躾にごめんなさいね……よくここの祠をお掃除してた方がいて、他には誰もやってないからてっきりお孫さんか親戚の子かと思ったの……」
「そ、そうなんですね……」
「貴女はこの辺りに住んでるの?」
「あ、はい、近くに。といっても、引っ越してきて一年半くらいなんですけど……」
「そうなの。じゃあ、私とは入れ違いね」
女性の言葉に七緒は小首を傾げる。
「元々この通りに住んでいたのだけれど、主人も亡くなって一人になったから一緒に住もうって娘が言ってくれて。二年くらい前に引っ越したのよ。この辺りは知り合いも多いから、出掛けたついでに寄ってみたのだけれど……」
女性は少し寂しそうな顔をする。
七緒は今なら武藤さんについて訊けるのではないかと思った。
「あの、武藤さんって、祠の掃除をされてたんですよね?」
「ええ、そうよ」
「その、今って……あ、いえ、その、祠が少し荒れてたので、最近は来られてないのかなと……」
「私も今日別のお友達の家で聞いたのだけれど、去年の秋の初め頃に倒れたらしくて、入院してるそうよ……」
「去年の秋から……」
九月くらいからだとすれば、もう半年近く経つということだ。
女性は帰る途中だったらしく、七緒に祠の掃除をありがとうと言って去っていった。
(稲荷さんは、秋に一度苺の苗を植えたって言ってたし、まだ入院してるならずっと悪い状態ってことなのかな……)
老婦人が何故倒れたのかは分からないが、高齢ならば治るのにも時間がかかるのだろう。
(最悪そのまま、ってこともあるなら、苺がちゃんと実るようにしないと稲荷さんもお礼ができなくなる……)
ただ草取りなどを手伝っていればいいかと思っていたが、もう少し苺の育て方について知っておく必要があるかもしれない。
そんな決意をしながら祠の裏に向かった七緒は、目の前に広がる光景に一瞬思考を放棄した。
草抜きを終えて広くなった裸の畑を想像していたのだが、何故か土など見える隙間もなく緑に覆われている。
(え? 雑草……? この前ほとんど抜いたよね……?)
また生えてきたのだろうかと思ったが、よく見れば生えている植物は一種類で稲荷に見せてもらった苺の苗と同じ葉の形をしている。
(あれ……この前来たのって、三日前、の筈……)
自分の記憶違いだろうかと立ち尽くす七緒に気付いたのか、奥にいたらしい稲荷が跳ねるように駆け寄ってきた。
「そなた! 来てくれたのじゃな!」
「あ、はい、こんにちは……えっと、お供え物に三色団子を買ってきて、祠に置いてます……」
「おお! 団子とな! 有り難い!」
団子は好物だったのだろう。稲荷は溌剌とした笑顔を浮かべる。
髪は最初に見た時よりも白く輝いて見えるし、薄汚れていた和服――恐らく水干という着物だ――も、綺麗になっている。
お風呂に入って服も洗濯したのだろう。否、風呂などないだろうから水浴びだろうか。何にせよ、心に余裕ができたのならばいいことだと、七緒は改めて眼前に広がる畑に目を向けた。
「稲荷さん、これって、もしかして全部苺ですか……?」
「ああ、そうじゃ! 蔓が伸びてあっという間に増えたぞ!」
大神様のお蔭じゃ、と稲荷は嬉しそうに説明する。
広くなった畑分の苺の苗をどうやって調達してくるのか気になっていたが、心配はいらなかったようだ。
(でも、三日でこれって……)
枯れかけていた苗が元気になるだけならまだしも、この成長速度は明らかに異常だ。今どれだけの株が根付いているのか、七緒は数える気にもなれない。
(大神様のお蔭って、あのオガタマ飾りの力ってことだよね……)
こんなことができる代物を礼として貰っていたと思うと気が遠くなってくる。
(あの子の飼い主さん、ちょっと感覚ずれてそうだな……)
尤も、渉が言うには、七緒が持ってる場合はちょっとした幸運が訪れる程度の効果しかないので、こんな非現実的なことは起こらないのだろうが。
(私が持っててもそんなに意味ある使い方ができないなら、オガタマに強い力があっても関係ないのか……その代わり、稲荷さんみたいに欲しがるひとが出てくるだろうから、魔除けの鈴も付けた、と……)
一体どんなモノがこれだけの力を欲しがるのか、具体的にイメージできるわけではないが、柴犬の飼い主も簡単に奪われてしまうのは良しとしないだろう。
そこまで見越して鈴を付けたのだろうから、あの鈴はそれだけのモノを退けられるだけの力を持っていると考えた方が理に適っている。
(鈴、失くさないようにしよ……)
七緒がお守りの効力について再認識していると、後ろから誰かの足音が聞こえた。
「あんた、また来たの?」
「陵さん……」
今日もコンタクトレンズらしく、眼鏡を掛けていない陵が腕を組んで立っている。
「あ、はい……渉さんに相談したら、手伝っても問題なさそうだということでしたので……」
陵は隠しもせずに溜め息を吐く。
「あ、あの、陵さんが言うようなことも確かにあるから気を付けるようにとは言われてます! ただ、稲荷さんの手伝いなら大丈夫だと聞いたので……」
またあの人は、と陵は苦々しそうに漏らす。
「あんたがそうしたいなら、そうすればいい。どうなっても自分の責任だと分かってるならな」
「は、はい」
「ただ、渉さんの言葉はあまり真に受けるな」
「え……」
陵の言葉に七緒はどきりとする。カフェでの二人は様子を見る限り、渉と陵の仲は悪くなさそうだった。あの夜も真っ先に渉に連絡をしたのは陵だし、彼からそんな言葉が出てくるとは思わなかった。
「あの、それは、店長さんが嘘を吐いたりしてるってことですか……?」
「違う」
陵は頭が痛いと言わんばかりに髪をくしゃりと掻き上げる。
「あの人は、代々神社の宮司をやってる家系に生まれた人だ。子供の頃から神だの妖だの視えてるし、そういうものとの付き合い方も分かってる。あんたもその稲荷の件で分かったろ。敵意を向けられてる場合と、懐かれている場合の違い」
七緒はすぐ傍にいる稲荷を見下ろす。
不思議そうに小首を傾げる今の稲荷とあの夜襲ってきた獣は、全く別の存在と言ってもいい程に違う。
「隣の神社にもそこの稲荷みたいな存在はいるし、子供の頃から慣れ親しんでるあの家の人間はそれなりに気に入られてる。端的に言うと庇護下にあるようなものだ。万が一、余所で粗相なんても多少は大目に見られる。まぁ、そもそもそんなヘマはしないだろうけど。要するに、根本的にあんたとは違う」
「な、なるほど……」
「あの人はそれが当たり前で育ってきてるから、その辺の感覚がズレてる。あの人の“大丈夫”を完全には信用するな」
「わ、分かりました……」
特に嘘を吐いたとか、悪意があるという訳ではないようだが、渉と七緒の育ってきた環境と考え方には大分隔たりがあるようだ。
七緒が稲荷のような神に粗相を働いたとして、大目に見てもらえる可能性はないのだから、陵の忠告をしっかり聞いておいた方が良いのだろう。
「陵さんにも、そういう神様の庇護があるんですか……?」
七緒のことを気に掛けているのだろうが、こうして稲荷の祠に何度も来るのだから、関わっても大丈夫な何かがあるのかもしれない。
そう思って尋ねたのだが、陵はきっぱりと「ない」と言った。
「そもそもあそこの人間みたいに庇護下にある方が稀だ。宮司の家系だからと言って、視える人間が揃ってるわけじゃねーし」
「そうなんですね……」
陵も渉のような庇護がないという点では七緒と似たようなものなのだろう。
「それで? ここまで分かって、それでもあんたは稲荷の手伝いすんの?」
「それは……」
渉と違って七緒が大丈夫ではない可能性は理解できた。だが、今の稲荷とは仲良くできると感じているし、渉も良い関係が築けていると言っていた。
(それに、あのお婆さんの病気が良くないなら、できるだけ早く苺を実らせないと……)
もしあの老婦人が先に亡くなってしまえば、稲荷はお礼もすることができなくなるし、そうなった場合、稲荷はまたあの獣に堕ちてしまうような気がしてならない。
「稲荷さんのお手伝いだけはしたいと思います。あっ、もちろん、ちゃんと稲荷さんに色々訊いてから、粗相とかしないように気を付けますし、もしこの先似たようなことがあったら、陵さんが言うように気を付けます……それでもいいですか?」
「……別に、あんたがどうするか、俺に決める権限はないし、好きにすれば? あんたがどう動くのか分かんないとこっちも動き辛いから訊いただけ」
その言葉に、七緒は陵の顔を見上げる。
やはり美人過ぎて少し怖いが、こうして気に掛けられていると分かる発言を聞くと、少しだけその恐怖心も和らぐ気がした。
「それは、また様子を見に来てくれるってことですか……?」
「言ったろ、後味悪いって。下手に死なれて恨まれるのも面倒だし」
「死……!? 恨まれ……!?」
「逆恨みされたら面倒だろ」
「いや、そんなことしませんって……! というか、死って……!?」
「神に祟られると大体が死ぬ。適切な対処法を知ってるやつなんてほとんどいないから」
「な、なるほど……いや、でも、それにしても逆恨みとか……」
七緒は陵の表情を窺う。思考や感情を読み取れるほど彼の為人を知っている訳ではないが、冗談を言っているようには見えなかった。
「されたこと、あるんですか……?」
「あるから、面倒でもここに来てんの」
陵は軽く溜め息を吐くと、祠の台座に腰掛けた。この前のように手伝う気はないのだろう。
尤も、苺もこれだけ増えているため、七緒も今日は一体何を手伝ったらいいのか分からないのだが。
取り敢えず、何をしたらいいか稲荷に尋ねようと声を掛ける。
「今何かお手伝いできることってありますか?」
「そうじゃのぅ、苺の周りの草を抜くくらいじゃな。取っても取っても生えてくるのじゃ」
苺がこれだけ急成長するのだ。雑草も同じく伸びやすくなっているのだろう。
七緒はしゃがみやすい場所を見つけてしゃがむと、苺の葉を掻き分けながら目に付いた雑草を抜いていく。
「てか、あんた、春休みなんだろ? 一緒に遊ぶ友達とかいねーの?」
痛いところを突かれて、七緒は「うっ……」と呻く。
「い、いえ、別に友達がいないというわけでは……皆、実家に帰ったり、サークルとかアルバイトで忙しかったりするだけで……」
「高校の同期とかもいるだろ」
「ええと、うち、転勤族でして、高三の途中で他県から引っ越してきたんです……受験勉強真っ只中で、仲の良い友達とかそんなにできなくて……」
「ああ……」
陵の声がどこか同情めいたものに聞こえたのは気の所為ではないだろう。
小学校以降、父の転勤で日本各地を転々としていたため、友達が少ないのが七緒の当たり前になっていた。お一人様にも慣れてしまったためカフェなども一人で入れるのはいいのだが、周りから見ると可哀想な部類に入るのは七緒も理解している。
「そ、そう言う陵さんこそ、お休みの日に一緒に遊ぶ人とかいないんですか?」
折角アルバイトが休みなのだから、友人と出掛けたり好きなことをしたりすればいいのにと七緒は思う。
「別に。人の多い所に行くと絡まれるから、そもそも出歩きたくねーし」
(絡まれる……)
一瞬不良に絡まれる場面を想像したがどうにもしっくりと来ず、陵の顔を見る。すぐさま何人もの女性に声を掛けられている姿が思い浮かび、こっちだな、と七緒は納得した。
カフェで見掛ける時の分厚い眼鏡とマスク姿でさえ、後姿を見ると何となく格好いいと感じられるのだ。こんな風に眼鏡を外した状態で歩いていたらすぐに女性が寄ってくるだろう。
(マスク外したらもっと綺麗だし……)
あの暗がりの中、思わず二度見するほどに整った顔立ちをしていたことを思い出す。
どうしてか見惚れるよりも先に怖いと感じてしまったのだが、あれ程の美貌を見て怖いと思うのは七緒くらいだろう。
話し方はぶっきらぼうだが、話していると良い人だと感じるので、きっと女性にはモテるだろう。
(あの時も、温かい飲み物くれたし――って、あ……! 何もお返ししてない……!)
あの時は気分が悪くてそれどころではなかったのだが、奢ってもらったことをすっかり忘れていた。
「あの、陵さん! 私、飲み物奢ってもらったままで……!」
「ああ……」
「何かお返ししますね! 好きな飲み物とかありますか?」
「別に、返さなくていい。大した額じゃないし」
「いえ、でも、色々と助けて頂きましたし……」
「必要ない」
二度も不要だと言われ、七緒は口籠もる。
(いやでも、色々してもらってばかりだし……店長さんに相談してみようかな……)
七緒としてはちゃんとした形でお礼をしたい。渉は陵のことをよく知っているようだから、陵が困らない範囲で何かできるかもしれない。
(またお店行かないとな)
美味しいものが食べられる点は願ったり叶ったりなのだが、財布の中身が少し心配になってくる。
(やっぱりバイトもちゃんと探さないとか……)
そんなことを考えていると、ぽつりと頭の上に冷たいものが落ちてきた。
見上げると、先程よりも雲が厚くなっている。風が木々の葉を揺らす音が聞こえたかと思うと、また二、三滴雨粒が七緒の顔に落ちてきた。
「あ、雨……」
陵が溜め息を吐きながら腰を上げる。
背中に掛けていたボディバッグから折り畳み傘を取り出しているのを見て、七緒も自分も帰らなければと思い立ち上がった。
「稲荷さん、また来ますね」
傍で一緒に雑草を抜いていた稲荷にそう声を掛けると、稲荷はぴんと耳を立ち上げる。
「また来てくれるのか?」
「はい」
頷くと、稲荷は嬉しそうに尻尾を振った。
ぽつぽつと落ちてくる雨粒が増えている。本格的に降り始めない内に、と七緒は陵の後に続いて表の通りへと出たのだが――。
ざぁっと音を立てながら、俄かに雨脚が強まった。
「えぇ……」
大粒の雨が音を立てながらアスファルトを打ち、視界が白く霞んでいく。予報ではここまでの大雨が降るとは言っていなかった。
既に傘を差していた陵が盛大に溜め息を吐いた。
「家、どっち」
「あ、あっちです……」
指で示しながら答えた七緒の頭上に陵が軽く傘を被せる。
「あ、あの、走ればすぐの距離ですから……!」
「近くても着く頃にはずぶ濡れだろ」
現に傘からはみ出ている左肩は既に濡れ始めている。
「どうしても風邪引きたいなら別だけど」
「う……」
流石にそれは、と七緒は頭を下げる。
「お願いします……」
「なら行くぞ」
土砂降りの雨の中を陵と二人で足早に歩く。
傘はほとんど七緒の頭上にあり、ちらりと見上げると、陵の髪から雨が滴り落ちるのが見えた。
そんなに気を遣わなくていい、と言いたい気持ちに駆られたが、ここで無駄にやり取りを繰り返すくらいなら早く家に着いた方が良い。
七緒は家への道順を説明しながら必死に歩いた。
陵のお蔭で、七緒はそれほど濡れずに家へと着いた。
「ありがとうございます。あの、タオル持ってきますから、少し待ってて下さい」
玄関先で陵にそう言うが、陵は「別にいらない」と言ってそのまま踵を返そうとする。
冬の雨は冷たい。こればかりは譲れない、と七緒は咄嗟に背中に掛けられているボディバッグを掴む。
「駄目ですよ、結構濡れちゃってるのに……! すぐに戻りますから!」
陵が頷くまでは離さないぞという心意気でしっかりと握っていると、流石の陵も簡単に折れた。
「分かったから、離して」
溜め息を吐きながら言う陵に、「ちゃんと待ってて下さいね!?」と念押しして、七緒は家の中へと入った。
靴も脱ぎ散らかして洗面所にあるタオルを取って引き返す。適当な靴に足を突っ込んで玄関のドアを開ければ、煩わしそうにマスクを外す陵の姿が目に入った。
その辺のアイドルや俳優より整っている顔に視線が釘付けになる。濡れた髪が頬にはりついていて、流れた水滴が顎を伝って落ちて――。ただそれだけのことなのに、恐ろしい程の色気を感じた。
振り返った陵と目が合い、ぞくりと身体が震える。少し雨に濡れたからか、寒気を覚えた。
「タオル」
「あっ、はい!」
固まったままの七緒に陵が催促し、七緒ははっと我に返ってタオルを渡す。
「まだ濡れると思いますから、そのまま持って行って下さい」
「今度返す」
陵はタオルを広げて髪を軽く拭くと、タオルを頭に被せて降りしきる雨の中、傘を差して帰っていく。
「あ、ありがとうございました……」
既に聞こえていないかもしれないが、一応、と七緒はその背中に向かって声を掛けた。
陵は一瞬だけこちらに視線を向けたが、何も言わずに白く霞む雨の向こうに消えていった。
(し、心臓に悪い……)
七緒は玄関のドアに凭れ掛かって軽く息を整える。
鼓動はいつもより早いが、陵の美貌にときめいたとかそういう理由ではないことは自分でもよく分かる。寒気が未だに引かないのだ。
(やっぱりなんか怖いんだよね……怖い人じゃないのは分かってるんだけど……)
先程の陵の姿を思い出して、七緒は身震いをする。
雨で気温が下がったから余計に寒さを感じるのだろうと、七緒は腕をさすりながら家の中へと入った。
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