再起と依頼
両脚と左腕が無残に撃ち抜かれ、右肩が焼けただれていた。黄金の血液が石畳に滴り、ひたりひたりと広がる染みは、まるで俺の命そのものを溶かし出しているようだった。
幸哉は膝をついたまま、荒々しい息を必死に整えようとするが、肺の奥底に残る熱は冷めやらず、心臓の鼓動が耳元でうなる。
このままでは——アルヴェンを守りきれない。
その思いが胸を締め付け、深い絶望が渦巻く。昨日、あの小さな娘に誓った言葉が脳裏をよぎる。「必ず守る」と。だが今、俺は地を這うことすらままならない無力な姿だ。怒涛のように押し寄せる無力感が、自我を飲み込もうとする。
その瞬間だった。
「幸哉さん……動かないで」
かすかな足音が近づき、耳に馴染む声が響いた
ティナだ。彼女は静かに、まるで影のように忍び寄り、誰にも気づかれぬよう慎重に背後に寄り添っていた。
「ティナ……? なんで……」
「アルヴェンちゃんが引きつけてくれてる。今のうちに治すよ」
ティナは腰の薬袋から小瓶を取り出し、俺の傷口にそっとポーションを垂らす。ジュッと皮膚が再生する音が響き、焼けた肉がじくじくと元のカタチを取り戻していく。奇跡のような感覚が全身を包む。
「これどういう仕組み?」
「わかんないよ! 今度自分で解明して!」
再び拳を地面につき、踏ん張る足に微かな力が戻ってくるのを感じる。ティナのポーションの恩恵か、それとも意地が俺を支えているのか。右足の感覚は鈍く、左腕の動きもぎこちない。それでも立てる。それだけで十分だ。
「ティナ、頼みがある。」
「え? 何?」
「奴を倒す秘策を……いや、科学実験をやってほしい」
「わ、私が!? 無理だよそんなの!」
「いや、できる。ティナには一度見せてる」
「え?」
「レモン電池さ」
ティナの瞳が見開かれ、不安と決意が交錯する影がその表情に浮かぶ。軋む脚を支えに、俺はゆっくりと立ち上がった。風が頬を撫で、夜明け前の湿った空気が覚悟を後押しする。濡れた瓦礫を踏みしめながら歩を進め、手にはカイルとの戦闘で飛び散った金属片——破片、欠片、死にゆく記憶の残骸を拾い集める。足元に並べ、アルヴェンの行方を探る。
「……アルヴェン、どこまで逃げた?」
呟きは風に溶け、答える者はない。だが分かっている。今、ここで声を上げなければ、彼女に届かない。俺は右腕を地に叩きつけ、地面が低く唸る。
足元から金がうねり、鉄骨のように軋む音と共に純金の柱が天を衝く。厚く、重く、揺るぎない塔が形成され、俺をその頂点へと押し上げる。風が吹き抜け、夜の湿気が肌に染みる。深く息を吸い込み、俺は全存在を込めて叫んだ。
「カーーーーイル!!!!」
怒声が静寂を切り裂き、窓が震え、鳥が一斉に飛び立ち、遠くで犬が吠える。やがて、チカッと鋭い光が空を走る。
——来た。
マジックガンの弾丸が空気を裂き飛来する。
俺は柱の側面を叩き、金の装甲を展開。直撃を防ぐが、数発、さらに数発が続き、壁にひび割れが広がる。
それでも立つ。叫び続ける。屈しない。
やがて、濃い影が現れる。黒い外套を翻すカイルが地上に立ち、両手を広げて塔を見上げ、嘲るように嗤う。
「ハッ、驚いたな! お前、不死身なのか!?」
その声には軽さがありつつ、微かな苛立ちが滲む。
「血が流れれば死ぬさ。ただし……忘れるな。俺たちは錬金術師だ!」
金の柱がきしみ、次の瞬間、カイルが右足を地に叩きつける。地鳴りが響き、金の構造体が容易く砕ける。
「マジか……!」
呟きが終わる前に、カイルの蹴撃が再び襲う。柱が次々に割れ、瓦礫と化す。空中に放り出された俺は、金塊の破片に飛び移り、落下を制御する。
「うおおおおおっ!!」
右拳を錬成し、凶器と化してカイルを狙う。が、一瞬の隙。カイルの身体が風のように揺れ、拳をかわす。
「遅いんだよ」
回し蹴りが腹に突き刺さり、空気が肺から抜ける。「ぐふっ!」と呻き、俺は瓦礫の上を転がる。視界の端でカイルが銃を構える。
——ダメだ、防ぎきれない!
その時、鋭い矢が飛来し、マジックガンを弾き飛ばす。
「……ちっ。あの小娘、いい腕してやがる」
アルヴェンだ。遠くからの援護。こちらからはその姿を視認できないが、カイルは矢の射角からすでに居場所を割り出したようだ。




