第三話「宇宙へ」.2
【そういう問題じゃないですよ、フィオガ】
ホチャーから、少し呆れたような回答が返ってきた。
確かに普通の人間なら、十年をかけて成長したとしても人間の域は出ない。
だけど今のボクは人間の身でありながら森の獣たちより速い。感覚器官も鋭く、森の中央からコンゴーの足音を聞き取ることもできた。
「いまだに、帝国でアクシャハラ・リアクターが実用化されたような動きはない。あの高出力機関、使用すれば特有の波形を発するが、宇宙のどこでもそれは観測されていない」
『よかった。修行中に使われちゃったらどうしようかと思ってた』
初めて使い始めたころよりずっと文字を書くのは早く、正確になっていた。
両腕に搭載したガントレットには、アンブロス・ジェネレーターと呼ばれる、銀河連邦軍でも正式に採用されている動力機関が搭載されている。
こんなガントレットに内蔵できるほど小型化できているとは知らなかったけれど、たぶんクワハウ人に限定したものだ。
『星を離れてもいい?』
「ダメと言われても勝手に行く気であろう」
『うん。でも、あなたの許可が欲しい』
認めてほしい。あなたが助けた人間は、銀河を渡り、正しいことを為せる人間に成長したと。父さんと母さんを認め、力を貸したように。
「確かに体も大きく成長し、技術も培った。だが、それで宇宙海賊と戦えるかと聞かれると、疑問は残るな」
『手厳しい』
「敵は君が考えるほど甘くはないのだ。まして、軍や警察に入るわけでもないのだろう」
『年齢制限、まだボク実年齢は十四歳だよ』
「この星は地球とは一サイクルごとの経過日数が違うから……正確には」
【約十一年ですね。この星の一年が四九四日ですので、地球時間なら九年と六か月程度ですね。そこに一日の時間が三十時間で、さらに加算され、およそ一年九か月を生きた計算です】
「それでもまだ十七歳か。うむ、所属基準に満たんな」
だから、一人でも頑張る必要がある。
『ハンターナイト教会に所属するよ。あそこなら、登録だけで誰でも活動できる』
「だがその分、助け合いの精神はないぞ」
『帝国のスパイがどこにいるかわからない以上、覚悟の上だよ』
ハンターナイト教会。
協会ではなく、教会である。
つまり、宗教団体だ。
「ハンターナイト教会か。狩りの神に獲物を捧げる風習だったかな?」
『うん。でも誰でも入れるし、ライセンスもとれる』
【私が調べました! これでフィオガは問題なく活動できますよ。申請に必要な電子書類はご用意いたしましたので、未成年者および無戸籍状態の場合は、保護者および監督者による許可が必要になります】
「つまり、私の許可ということだね」
別に申請内容の調査があるわけじゃない。黙って申請したとしても問題などない。
それでもボクは、コンゴーの許可が欲しかった。
「……決意は固いようだな」
『体が成長するのに十年かかった。コンゴーは三百年かかると思っているけど、技術はいつブレイクスルーを起こすかわからない』
「そうだな。我々クワハウ人も、突発的なブレイクスルーで成長した種族だ」
【それではマスター。こちらを】
ホチャーが投影ディスプレイを投げた。そこにコンゴーは自分のサインを書く。
地球人と、クワハウ人。血の繋がりなんて何もない者同士の、親子の証明。
全てを奪われた者と、そのきっかけ。贖罪のための行動。
きっと、ボクたちのことを他人が見たら、歪だと言うだろうけれど。
それでも、コンゴーが大切で、大好きなヒトなのは、揺るがない事実だった。
『ありがとう。父さん』
「気を付けてな」
クマの顔が笑った。この星での七年――地球時間においては十一年。
いつの間にか、コンゴーの表情の変化は読み取れるようになっていた。
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