第三話「宇宙へ」.1
惑星b-An、クワハウ人の居住地であるこの星は、人口太陽による気温コントロールと、天候コントロールによって、表面上の牧歌的な雰囲気とは対照的に、環境は完璧に整備されていた。
地球上の温帯気候とよく似た環境であり、数多くの動物たちが生息している。
その中には、もちろん穏やかな動物だけではなく、狂暴な肉食性動物も存在する。
「――ッ!」
「ギャウッ!」
ボクは、木々の間を走り抜ける。呼吸器をつけたままでも、何か問題があるわけじゃない。自ら呼吸能力を抑え、体力をつけるための特訓だ。
飛び掛かってくる獣たちを除け、払い、森の中を駆け巡る。
右腕に装備したガントレットを起動。背中から引き抜いたプレートにエネルギーを供給。刀剣状のプレートに刃はないけれど、刻み込まれた神聖刻術によってガントレットからパワーが伝達する。
そうすれば――。
「ッ――!!」
ガントレットに内蔵されたアンブロス・ジェネレーターによってエネルギーを供給された、レーザーブレードになる。
その場でスライディングしながら急停止。飛び掛かってくる獣の胴体を、横薙ぎにして切断した。
――コヒュー! コヒュー!
呼吸器から呼気が漏れる。肩で息をしながら倒れた獣を見る。
ガントレットを操作すれば、供給されていたエネルギーが停止し、レーザーブレードは刃のないプレートになる。背中に納めた時、草を踏みしめる音が耳に届く。
足元の獣を拾い上げると、振り向いてそちらに駆けていく。
「今日の獲物は仕留められたかい。フィオガ」
森を出たところに、杖を突いたコンゴーがいた。
少し腰の曲がったクワハウ人に、ボクは駆け寄った。
『コンゴー見て』
左手のガントレットに文字を書けば、立体映像で表示される。変わらず声は出ないため、右は狩りに、左は会話に使う必要があった。
掲げた獲物の胴体は真っ二つ、高出力レーザーで傷口が焼けていて、血は垂れない。
「うむ……いい獲物だな。いや、しかし……」
『どうかした?』
「すっかり元気になったうえに、大きくもなったなぁと思ってな」
『そういえば、いつの間にか視線が同じだね』
コンゴーは、昔はもっと大きく、本物のクマのように思えた。けれど今の彼と目線が同じ位置にある。腰が曲がってしまったことはあっても、小さくなってはいないはず。
【それだけフィオガの背が伸びたって話ですよ。七年も経てば、すっかり成熟しちゃって】
「よく食べよく眠り、すっかり立派な狩人だ」
『戦って勝つために学んできた。七年もかかっちゃったけれど』
自分では、自分の成長はよくわからない。気づけばいつの間にか、届かなかった場所に手が届き、川に入っても膝までしか沈まず、数個の木の実でいっぱいだったお腹は、狩った獣半分を食べないと満足しないくらいになっていた。
【たった七年で、身長百センチ程度の幼子がプラス六十……あれ、案外あんまり成長しませんでしたか? マスターが小さくなりました?】
「フィオガの生存のために、事前に組み込んだ原祖遺伝子の影響もあるだろう。普通の再生手術では、最低でも五年以上かかった体組織の修復も、この遺伝子のおかげで早く済んだ。逆に、通常の成長が少し妨げられたかもしれん」
【結果的に回復したからよかったとしても、もし拒絶反応が出ていた場合はどうしたんですか】
『強くなるためなら抑え込む』
【そういう問題じゃないですよ、フィオガ】
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