第二話「狩人の目覚め」.3
コンゴーとのリハビリは、血反吐を吐くようなものだった。
まず、もともと幼子ゆえに低い体力と筋力を補いながら、成長に必要な栄養を摂取する。育ち切った大人とは違い、まだまだ成長の余地があるからか。辛くはあるが、順調ではあった。
【さ、がんばってください、フィオガ。本日の目標まであと二セットですよ!】
『すこし』『まっ』『水』
【こちらをどうぞ。電解質とたんぱく質を複合し、特性ドリンクです】
「あまり入れすぎないようにな。過剰だと水分を失う原因にもなる」
【もちろん。フィオガの体調に合わせてばっちり調整していますよ!】
ボクとコンゴーの会話に絡んできたのは、はきはきとした女性の声だ。しかし、そこにヒトはいない。コンゴーが開発したAIプログラムであり、車椅子のスピーカーから声がする。
名前はホチャー。クワハウの古い言葉で、他者を助け支えるという意味がある。
「少しは体が動くようになったとは言え、まだまだ子どもの身体能力だ。私と追いかけっこしたとしても勝てないくらいだ」
『がんばる』
「君がそうしたいのなら、付き合おう」
少し呆れ気味のコンゴーだけれど、彼は根気よく付き合ってくれた。体のリハビリはもちろん、文字や言葉の勉強、ボクを宇宙からこの星まで連れてきた船に関する知識。果ては操縦、整備の仕方までも教えてくれた。
「そこまでして、君は復讐を望むのか?」
『もちろん』
「君の話を聞く限り、敵はクロビアン人、宇宙海賊の筆頭種族と言われる者たちだ。強靭な肉体と残虐な性質を併せ持ち、略奪をするために生まれてきたような者たちだ。地球人の何倍もの筋力と耐久力、帝国の後ろ盾で整えられた装備。勝てる要素は少ないぞ」
『それでもいい』
「なぜそこまで」
コンゴーの目は、真剣に問いかけてきていた。
ボクが何を望み、何を成し遂げたいと思っているのか。今でもあのクロビアン人と刺し違えようなどという思考に陥っていないか。それを心配してくれているのだろう。
『父さんと母さんの』
「君の両親の?」
『研きゅうをわるいことにつかうのがいやなんだ二人がわるものになっちゃう』
素早く書き切ったそれを見て、コンゴーの両目が大きく見開かれる。
アクシャハラ・リアクターが悪用されない可能性はすでに示した。それでもなお、ボクは両親の研究成果を取り戻すことを諦めていない。
確かに、三百年かかるだろうという予想はあるが、あくまで予想だ。
帝国の誰かがブレイクスルーを起こし、一足飛びにアクシャハラ・リアクターを使用可能にする確率はゼロではない。
「だからと言って、君がやらなくちゃいけないことじゃない。あの時は、連邦軍内部にも裏切り者がいたんだ。君の両親を帝国に売り、銀河帝国に亡命した将校がいたんだ」
『なら』『そいつも止めないと』
父さんたちの研究は奪われた。帝国が絡んでいるのは間違いなく、クワハウ人のテクノロジーは、力を求める者ならだれでも欲しがることだろう。
なら、それを悪用させないのも、父さんたちの責任だったはず。
『ぼくがとりもどす』
だからリハビリが苦しくてもがんばれた。
実際、スペースパイレーツへの復讐は、あまり問題にしていない。そんなことをしても無意味だとわかっている。だからこそ、二人の仇は討ちたいとも思う。
でも何より、誰かの幸福を願ってがんばっていた二人の夢を、他人に利用されるのが我慢ならなかった。
「フィオガは、やっぱりあの二人の子どもなんだな」
【DNA上は当然ですよ?】
「……ホチャーはまだまだ学ぶことが多いようだな」
そう。もっと多くを学ばなければならない。
これから、何年も。
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