表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/123

第二話「狩人の目覚め」.1



 この銀河において、人類社会――銀河連邦を脅かすのは、三つ。

 未知の惑星に存在する、凶悪生物たち。

 辺境で自らを『銀河帝国』と称した武装集団。

 そして、それの先兵として傍若無人に振る舞う宇宙海賊。


「つまり、君を襲ったのはその三番目ということだ」


 連邦は警察、軍隊、傭兵、さらには賞金稼ぎなども交えて、この対処にあたっている。

 だが後ろ盾を得た海賊とは非常に強力で、長年にわたる交戦もむなしく、その数は減るどころか増える一方だった。


『父さんと母さんを』

「……そうだ。君の両親は皆を守るために研究を続けていたのに」


 ボクの書いた文字に、コンゴーは苦しげに答えた。

 そして彼は、手元にある小さなケースを見せてくる。

 視界はまだほとんどぼやけている。まともに見えないはずなのに、紫の光が飛び込んできた。見覚えがあった。


『それは?』

「君の両親が研究していた、アクシャハラ・リアクターの中枢コアユニットだ。戦闘用アンドロイドに使われるソーラー・リアクターよりも強力な、銀河最強の心臓だ」

『なんでもってるの』

「……この技術を教えたのは、私なんだ」


 クマの眉間に、深いしわができた。


「私たちクワハウ人は、かつてその科学技術と野心で宇宙に破壊と死をばらまいた。その反省として、私たちは自らの文明を封印し、これから現れる新たな銀河の担い手に力を貸すことを決めたんだ」


 コンゴーの語る内容は、その当時あまりよく理解できなかった。

 ただ彼は、その部族の取り決めに従いつつも、宇宙海賊の危険に晒される人々を放ってはおけなかった。そのためにボクの両親にアクシャハラ・リアクターの基礎研究を与えた。

 自分自身で制御可能な技術として学ばせること。それがクワハウ人の行う最大限の技術提供。自らを御せない文明に、力を与えることはできないというのが、彼らの結論だった。


「だが、その情報が宇宙海賊に……銀河帝国に漏れていたんだ。私が二人に技術を教えたことで、結果として宇宙海賊の脅威を呼び込んでしまったんだ」

『あなたのせいじゃない』

「君は優しいな……。せめてもの救いは、アクシャハラ・リアクターが未完成で、あれはただの光る石でしかない。私のこれとは違って、ただの光源にしかならない」

『あんぜん』『なの?』

「エネルギーの取り出し方を開発するのに、我々クワハウ人でも3サイクルかかったんだ。銀河帝国といえども、その十倍は必要になるだろう」


 クワハウ人にとって一サイクルは地球時間での約十年。つまり、銀河帝国がアクシャハラ・リアクターという最強の心臓を手に入れるには、三百年かかるとコンゴーは予想していた。

 それだけ難しい技術であり、クワハウ人の飛びぬけた科学力の証明だった。


「君の両親は、地球人の中でも、特に良識のある人だったよ。私たちが、クワハウの技術を託してもいいと思えるほどに」

『その心ぞうは』『つかえるの?』

「使えるが、どうした? まさか、両親の跡を継ぎたいなどと言わないでくれよ?」


 コンゴーにとって、両親の死は大きなトラウマになっていたらしい。だから、アクシャハラ・リアクターの技術提供には消極的な姿勢だった。

 クマの口がぐっと結ばれ、いやそうな顔をした。


『それつかえば』『つよい?』

「まさか、両親の敵討ちをしたいと言うことか? ダメだ、ダメだ! この力は争いに使うためのものではないし……何より君は、動くことすらままならないんだ」

『わか』『てる』


 ゴポポポ、と気泡が漏れる。全身を、あのクロビアン人に対する怒りが駆け巡っていた。まともに動かない体を動かしてでも、あの宇宙海賊に飛び掛かろうとした気持ちが蘇る。

 あいつだけは、許しておけない。


『なら』

「フィオガ……」

『なおしてくれる?』


 それが、彼の罪悪感に付けた込んだことだと理解しながら、ボクはコンゴーに頼んだ。

 自らの後悔から技術を封印した科学者に対して、どれだけ残酷な願いであったか。怒りに身を任せた子どもには理解できなかった。

 ただ戦う力を、あの時のボクは欲していた。



少しでも気に入っていただけたら幸いです。




評価、感想、ブックマーク、どんなものでも大歓迎ですので、お気軽にどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ