第六話「はぐれ者の少女」.3
彼女はこの先マフィアに狙われる。その答えに、アナトの顔はだんだん青くなる。
「どーすんのよ! あたし、狙われちゃう? こんな美少女売りに出すも飼殺すも好き放題! いやだぁ! そんな人生いやだぁ!」
泣きじゃくるアナトだけど、それで問題は解決しない。むしろ、ここに留まっている方が悪化しかねない。
隣では、マザー・コーエンがため息をつく。
「悪い子じゃないのよ。小さい子の面倒もよく見て、まじめに働いていた時だってあったの。でも昔からちょっと手癖が悪くてね。悪い子じゃないのよ?」
「二回も言わなくていい! 信憑性なくなるじゃない!」
自称アイドル、と言っていたから、たぶん地域住民には愛されているのだろう。ボクは父さんと母さんしかいなかったから、こうした明るい子がどんな感じなのか、よくはわからない。
ただ――。
『大丈夫。ボクが守るよ』
「ふぇっ!?」
「あら」
二人からかなり驚かれた。ハンターナイトが一般市民を守ろうとするのは、そんなに不思議なのだろうか。
『ようやく帝国への繋がりができたんだ。君は誰にもやらない』
「あ、うん、そういうこと」
『ハンターナイトとしても、職務を全うして見せる』
「ああぁ……なんて純粋な狩人。稀に見るほどに潔白! 狩猟の神・ヴォーダン。狩猟の王・アイザーン。狩猟の剣士・ホルガ―。このものに祝福をお与えください」
急にマザー・コーエンは祈り出した。アナトは少し不満げにしている。
ともかく、彼女の存在がこれから重要だ。このリアクターコアを取り戻しに来るなら、それが帝国と繋がる情報源になる。彼女を助けた意義は、思った以上に大きい。
「まあ、そりゃ、誰かに『守ってやるよ』とか『お前は渡さない』って言われるのは乙女の願望と言いますか? 夢と言いますか? 妄想した覚えがないわけじゃないけど」
『どうかした、アナト』
「フィオガがその範囲かっていうと微妙なのよねぇ。ていうか君、ずっとスルーしてきたけど本当にどっち? ボクってどっち? 私トキメイていいの? それとも新境地拓いていいの?」
『何の話?』
若干アナトの目が怖い。その頭をマザー・コーエンがはたく。
「今あなたの性癖を議論している場合じゃないの。さすがにハンターナイト教会に直接ぶっ込んでくる馬鹿はいないと――」
「――ッ! ッガ!」
文字を打っている暇はない。声が出せないことがこんなに不便だなんて、初めて感じた。コンゴーは助ける必要がなかったし、自分ひとりであれば避ければいい。
けれど、誰かを守るのは、簡単じゃない。
教会の窓の外。そこに見えた投擲物。何が投げ込まれようとしているのかはわからないなら、とにかく優先すべきは、二人の安全だ。
――レイハガナ、起動!
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