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第六話「はぐれ者の少女」.2


「へぇ、そう。何ぃ盗んだの、アナト」

「悪いもんじゃないよ! いや、あたしもよくわからないけどさ、あいつらの取引現場を監視していてね。なんかガラスケースに入れた宝石をやり取りしてたから……」

「ガラスケースに入れた宝石?」

『アナト、見せてくれる?』

「いいよぉ。行きずりの親友に秘宝御開帳ぉ」


 行きずりと親友って同居する単語だったっけ?


「これが、その宝石?」


 アナトが取り出したのは、紫色の宝石だ。教会の中に差し込むわずかな陽光と蝋燭の明かりが照らす。それだけで、宝石はきらきらと輝きを放つ。

 否――それはむしろ。


『内側から、輝いている』

「そうなのよ! こんな綺麗なものをあのマフィアどもが使うなんて、どうせ自分が貢いでいる遊郭にあげちゃうだけでしょ。なら換金してそのお金をもっと有意義に使ったほうがいいじゃない」

「……なんかきな臭い宝石ねぇ。こんなガラスケースに入れて……」


 ケースの大きさは、指二本で挟める程度。五センチほどで、その中に入っている宝石も、ひし形で瞳ほどの大きさ。

 たとえ、十年経ったとしても、その輝きは覚えている。


 ――リアクターコア。

【発生するエネルギーを検知。波長照合、間違いなく、あなたのアーマーガンナーにも使われている、アクシャハラ・リアクターの中枢コアユニットです】


 形状はごく小さく、発するエネルギー量はボクのものよりも格段に低い。表面上は似ていても、内部は不純物だらけで、完成にはほど遠い。


『それは、宝石じゃないよ』

「フィオガ? え、どういうこと?」

「フィオガちゃん、何か知ってるの?」


 その時、ボクは自分が拳を握りしめていたことに気づいた。

 十年前、父さんと母さんの手から奪われた、リアクターコア。その欠片ではない。研究され、量産されたものように思える。しかし、不純物が多く、アクシャハラ・リアクターとしては不完全どころか十分の一の出力すらない。

 ならなぜ、それをヴァーグスのマフィアが手に入れたのか。


『これは強力なエネルギー源になりえるコアユニットだ。未完成だけど危険なものだ』

「コアユニット? てことは、これ単体だと、何の意味もないってこと?」

「そういう問題じゃないわ。フィオガちゃん、どういうこと?」

『簡潔に言うと、連邦の研究機関から帝国に奪われた実験資料が、この星で拡散している』


 そう打ち込むと、二人の視線は手の中の小さな宝石に移る。

 単なる犯罪者同士の取引ではない。銀河連邦と帝国、この銀河社会の対立する二大勢力の抗争に、アナトは首を突っ込んでしまったのかもしれない。


「そ、そんなヤバメな案件だったのこれ!?」

「……ハンターナイト教会の本部に連絡しておくわね。もしかしたら、教会から何か指示が来るかもしれないもの。連邦だって、それを取り戻したとなったら褒賞が出るかもしれないし。もしかしたら帝国と戦えるかもしれないわねぇ」

「そんなこと言ってる場合じゃないじゃないかな、マザー。ていうかそんなに帝国と戦いたいの?」


 怯えた表情を見せるアナトに対し、マザー・コーエンはどこか好戦的な笑みを浮かべる。彼女の事情は知らないが、彼女も帝国とは因縁浅からぬ関係――というものだろう。


『それなら気を付けたほうがいい。このリアクターコアが盗まれたとき、奪ったのはスペースパイレーツだった。けれどそれを手引きしたのは連邦内の誰かだ』

【特A級保護対象であったお二人を狙った、連邦の議会、軍、警察その上層であるのは間違いないでしょう】

『だから、安易に首を突っ込まないほうがいい。アナトは……もう遅いかもしれないけど』

「にやぁぁ! 待って、そんな見捨てるような言い方しないで!」


 けれど、彼女がマフィアたちから盗んでいなければ、見つけられなかった。


『大丈夫。ボクはこのリアクターコアを取り戻すために、ハンターナイトになったから』

「あら、じゃあこれがフィオガちゃんの、狩りの獲物なのね」

『実績を重ねながら、帝国と繋がりのあるスペースパイレーツを探すつもりだったけど、思ったより早く進むかもしれない』


 時間がかかることは百も承知だった。無数に存在するスペースパイレーツ。それよりさらに多い宇宙の犯罪者たち。銀河連邦の中枢よりずっと離れた銀河帝国の本星。

 情報を集めるにしても、知っている者を探すにしても、まだ先のことだと。


『ヴァーグスは、宇宙のごみ箱なんて呼ばれるほど、無法と無秩序のたまり場。銀河連邦でも辺境惑星の一つで、銀河帝国領にも近い。二つの勢力が重なり合い共存だってしている』

「これを共存って表現できるのは、ロマンチストだけね」

『でも、ここで連邦と帝国の裏取引だって行われているんでしょう?』

「ええ。ここは連邦内に生まれた第三勢力。税金は連邦に納めているし、連邦軍と警察だって駐在している。でも、帝国の連中がいないわけじゃない」

「つまり、アタシが手ぇだしたのは、その帝国側マフィアだったってわけ?」

『だろうね』「でしょうね」


 ボクの文字と、マザー・コーエンの言葉が重なる。


少しでも気に入っていただけたら幸いです。




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