第六話「はぐれ者の少女」.1
足元に転がるのは、賞金額はそこそこもない、犯罪者集団の下っ端たちだ。
共通する刺青を掘って仲間意識を高めているのだろうけれど、そのおかげで誰を捕まえればいいのか一目瞭然だ。
『全員換金したらいくらになるかな』
【アーマーガンナーどころか、プレートブレードを起動する必要さえありませんでしたね】
足元の犯罪者は、全員痛みに悶絶してワイヤーで縛り上げてある。
人数は七人。その七人で、今ボクの後ろで尻餅をつき、息を切らしている少女を追いかけていた。
「あ、はぁ……ありがとう、助かったよぉ」
『礼には及ばない。おかげで臨時収入が入った』
「……? 投影ディスプレイ? あー……そういう感じ?」
薄紅色の髪の少女は、ニパッ、と笑って立ち上がる。腰に吊るした水筒から水を豪快に飲み干すと、転がっている下っ端連中に近づいた。
あぶないよ、と手を伸ばそうとするが、彼女は豪気に振る舞う。
年齢はボクと同じくらい。背は小さく、年下だと思う。
「運が悪かったね。これは、あんたらが持ってても意味ないものだから。ありがたく使わせてもらうわね」
「テメェ……このクソガキが……」
「あなたも本当にありがとう。こいつら運ぶの手伝うわよ」
『そう。ありがとう』
薄紅の少女はあの集団から逃げていた通り、身体能力は高い。ボクが四人を両手にそれぞれ担ぎ上げた時には、彼女は積み重ねた三人をいっぺんに持ちあげていた。
助ける必要あったのだろうか? と思いつつ、一緒に教会の中へと向かった。
「あら、フィオガちゃん、もう帰ってきたの? 何その小汚いやつら。賞金首、みたいね」
奥からマザー・コーエンがやってきた。紫煙を曇らせながら担いできた者たちを見る。一人ひとりに機械をかざして換金していく。別に生かす必要はないと言われるが、生きたまま捕まえれば強制労働惑星に送る人的資源になる。
賞金首の中には、時に生かして捕まえる限定で報酬が発生するものもある。その逆ももちろん。だから、殺さなくてもいいなら、殺さない。
この復讐の力は、あのクロビアン人を殺すためのものであって、誰も彼も殺すためにあるわけじゃない。
「アナト、フィオガちゃんと一緒にどうしたの?」
「たまたまね。フィオガって言うんだ。アタシはアナト。この街一番の物知りで、みんなのアイドル!」
担いでいた下っ端たちを放り捨て、可愛げなポーズを決める。アイドルとは、確か歌って踊って人気の人のことを言うんだったっけ?
「何がアイドルよ。アテクシが現役だったころは、街を歩けば皆が花びらを道に撒いて歓迎してくれたほどよ。それくらいになってからアイドルを名乗りなさい」
「いやいや、マザーがそれはないって。あ、フィオガ。このマザーね。人当たりよさそうだし、面倒見良いのは事実だけど、結構虚言癖があるから気を付けなよ」
「あんら、育ての親に対して言うじゃなぁい」
なるほど、この二人は疑似的な家族だったようだ。
ボクと、コンゴーのような。
『それで。彼らから一体何を盗んで追いかけられていたんだ?』
「……アナト、あなた何ぃしたの?」
「え、それは、いやぁ……その」
あははは、と彼女は苦笑いを浮かべ、振り向き走り出そうとする。
その背中を、分厚いコートをマザーの大きくて長い手が捕まえる。
驚くべきことにマザーは片手でアナトを吊り上げる。背の高いマザーに掴み上げられると、彼女の足は地面から離れた。
「待ちなさいこの泥棒娘! また人様にご迷惑かけてんじゃないでしょうね!?」
「かけてないから! かけたとしてもあいつらスペースパイレーツと変わらない奴らだからむしろみんな喜ぶよ!」
『そういえば、何か奪ったんだっけ?』
あの犯罪者たちに何かを見せつけていた。よく見えなかったが、何かを盗んだから追いかけられていた。
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