第五話「新米ハンター」.1
銀河連邦と、銀河帝国の対立は、実に数世紀に及ぶ。
かつては連邦の一自治州だった辺境地域が、貿易権と自治権の拡大、連邦議会での議席増員と惑星税軽減を求めた発言が発端となって、分離独立運動が広まった。
「最初こそは人民のため、辺境のためって話だったんだけど、そこから三十年。指導者が代替わりしてからは、それこそ無法者の溜まり場よ。犯罪者の引き渡し条約もなく、連邦政府の出す逮捕通知も、帝国内では無効。自治政府の軍と、集まりに集まったアウトローたちで構成された帝国軍は、まさかまさか、連邦の制圧艦隊を打ち破った」
『それが、帝国の始まりだね。歴史の勉強で習った』
「ならわかるでしょう。帝国の今の主体は連邦から流れた犯罪者と、帝国領にいた人民の子孫たち。あれらはこの宇宙開拓時代の蛮族。ゴミ溜めの似合う屑共の一人よ」
『危険ってことでしょ。大丈夫』
【このホチャーもついていますからね。どうぞご安心ください】
だからマザーには聞こえていないって。
どちらにしろ、この惑星が無法のたまり場で、帝国も似たような者なら好都合。
同類同士、交流があるなら情報もある。
「それでも、帝国と取引のある宇宙海賊を、追うの?」
『そのため、ハンターナイトになった』
「……決意は硬いようねぇ。こんな可愛い子が武器を手に臭い屑共を追いかける人生だなんて……あぁ神よ! どうしてあなたは美しき宝石に、厚く硬い原石をお与えになるのです! 慈悲があると言うのなら、この若きハンターナイトに光明をもたらしたまえ!」
『時間かかりそうなら後にしてもらっていい?』
時間を無駄にする気はない。
「あら、ノリが悪いわね」
【あなたのノリが行方不明なだけです】
「……なにかしら。さっきからずっと誰かに馬鹿にされている気がするわ」
『気のせいでしょ。それより、早く教えて』
「もうちょっとゆっくり人生を楽しめばいいのに」
ついてきなさい、というようにコーエンは指を振る。ハンターナイト教会の聖堂は、見た目こそ数千年前の地球時代での教会のようだが、その外装は対弾素材、緊急光学フィールド発生装置が内蔵されており、市民の避難シェルターにもなる。
教会を象徴する祭壇に人は祭られておらず、レトロな剣と銃を交差した十字架が飾られていた。ハンターナイト教会が祭るのは神であっても、それは偉大な狩りを為した先人たちが生まれ変わった姿だ。
「登録されたハンターナイトには、それまでの業績によってデータへのアクセスランクを設定しているの。教会は連邦とも親密にやり取りをしているから、全ての情報を一括であげることはできないわ。あなたが信頼に足るかどうか、見極めてからね」
『大丈夫、すぐにボクが頼りになるって証明する』
「あら、それは頼もしいわね」
あのクロビアン人がどこのだれか、正体はわからないけれど、正規ルートで、護衛がはずれた船を襲う。そんなの方々に影響力のある者にしかできない。
クロビアン人の海賊を一通り見ていくが、今のボクが知られる情報では、それらしい個体は載っていない。
もっと上位ランカーでなければ、戦うことも許されないということか。
『これがハンターナイト教会の、アクセス端末』
複数台の、旧式のコンピュータが並んでいる。ボク以外にも情報を求めてきたのか、数人のハンターナイトが、画面を前にして相談していた。
『好きに調べていいの?』
「もちろん。ただし表示されない情報は、情報それ自体がないか、閲覧権限がないか。どっちかよ」
『わかった。ありがとう、マザー』
「あなたの活躍が楽しみだわ。コピーは自由にとっていいからね」
マザーはそう言って資料室から出ていく。
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