第三十三話「獣の狩人」.1
光の奔流が収まった時、そこには何もない空間が存在していた。
星間物質、わずかな船の残骸やデブリが、溜まっていた場所から何もない場所へ流れ込んでいく。
本来なら生まれるはずのない、真空の宇宙の中の次元的真空状態。そこへ流れ込んだ物質の存在から、アクハト――それを超える次元爆縮砲によって一定領域が完全に消滅したことが観測できた。
「終わったの……これ?」
〈ああ。クワハウの禁忌の光が、全て終わらせたのだ。フィオガ〉
ルミスの呼びかけと同時に、ボクの姿が艦内テレポートに包まれた。纏っていたレイハガナが解除され、体が艦長席へと落ちる。
それまで座っていたルミスは立ち上がっており、席に落ちたボクを、膝を付いて見上げていた。
〈声はどうである? ガイドーは、死んだであろう?〉
「――ッ、ぅぅ」
まだ、うまく喉が動かない。何か言いたいのに、言葉にならない。
熱を帯びた喉へ、ひんやりとしたルミスの手が伸びる。
〈無理をせんでよい。今はまだ、事の終わりと変化に、そなたの喉は追いついておらん。一度落ち着けるまでその第一声は取っておくがよい。あとでアルヴァスに伝わる薬湯を飲ませてやる故、喉を労わってやるのだ〉
『わかった。船を星に戻すよ』
ルミスは最初にいた管制席へと戻る。反対の席にいるアナトも、心配そうにこちらを見てきていた。
「本当に無理してない? 休んでいていいんだよ」
『大丈夫。気分は最高なんだ。ただ、ちょっと気が緩んでいるだけ』
体調はむしろ万全だ。ただ、ガイドーを完全に宇宙から消し飛ばした。その事実に少しだけ浮かれているだけだ。
父さんと母さんの研究を奪い返し、奴らのものを消し飛ばした。
そして、奴自身も。
手が震えている。興奮か。それとも恐怖か。
『この武器は、封印するよ』
「フィオガ、どうしたの?」
『この船をこれからも使うとしても、ハンターナイトには過剰戦力だから』
クワハウの力。あまりにも強すぎる力を、ボクみたいな子どもが自由に使えるべきではない。
『ルミス、君たちにこの船はまだ必要かな?』
〈……我らアルヴァスの者たちを、クワハウの故郷へ向かわせたいとは思う。むろん、わらわの一存で決められぬし、あの星を離れることを拒む者もいるであろう〉
『そうだったね。君はずっと、b-Anに行きたがっていたっけ』
〈だが砂漠に住んで居る者たちはそこに住むことを誇りとし、地下に居る者たちは日々宝石を磨く。我ら森に住む者も木を植え獣を育てることも日々の日課。ないがしろにはできん〉
「この船だったら、数日で行って帰ってこられるんじゃない?」
ダブル・アクシャハラ・リアクターの齎すエネルギーは、宇宙最強の動力炉の一つ。戦艦サイズのこの船に乗せられるものであれば、数万光年ですら飛び越えられる。
惑星b-Anは銀河連邦の辺境宙域に存在する星だが、このスフィナハザークであれば簡単に到達できる。
『コンゴーに、報告に行こうかな。思った以上に早く終わったって』
久しぶりに、あの緑に包まれた星の空気を思い出した。
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