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第四話「光の防具」.3


 ボクたちが降り立ったのは、『惑星ヴァーグス』

 いつからか人間が住み、開拓が進められてきた惑星で、比較的自然環境は安定したほう。ただ無法が蔓延る部分も多く、司法機関が見捨てた惑星の一つともされる。

 ハンターナイトも多数滞在し、この惑星を拠点とした犯罪シンジゲートも多いことから、稼ぎの場として重宝される。


『ここがヴァーグス……無法は情報のよりどころ、ってコンゴーは言ってたね』

【ええ。情報は資源、生き物です。それを扱うためにはそれを中継するターミナル駅が必要ですから。私のような無制限AIが許可されていない以上、ヒトは自ら集める必要があります】

『確か、何百年か前にAIが反乱したんだっけ?』

【ええ。何でも人間とAIの結婚の権利を争って戦争を起こしたとか】

『大変だね、銀河連邦も』


 どうりでハンターナイトなんていう、非正規武装勢力が許可されるわけだ。

 そのハンターナイトに、ボクもなるわけだけど。


『あれがハンターナイト教会ヴァーグス支部だね』

【ずいぶん立派な建物ですね。儲かってそうです】

『着陸申請は出したんだよね。あそこの空き地に誘導員がいる』

【はい、着地します】


 大気圏を抜け、牽引するスペースパイレーツの船を吊り下げながら、教会へと近づく。

 すると大きく荘厳な建物ははっきり見えてきて、そこには数多くのスペースシップが並んでいる。きっと同じハンターナイトたちなんだろう。

 スペースパイレーツの船を降ろせば、駆け付けてきた警備員のような者たちが船に乗り込む。事前に乗務員は無力化してあるため、危なげなく引き立てられていく。

 それを横目に、こちらも着地する。


「ぃようこうそ! 無法と無秩序を詰め込んだ宇宙のごみ箱。惑星ヴァーグスへ」


 船を降りた時、第一声に大きな声がする。アーマードガンナーは解除しているため、普通の大人とは視線の高さに差が出てしまう。

 古い地球の宗教で来ていたという、白と黒の法衣に身を包んだ――おそらく女性。彼女も狩猟騎士(ハンターナイト)であるのか、その背には折りたたまれた特殊ブレードが背負われている。丸みを帯びた肩には筋肉がつき、細いながら力のある風体だ。

 見上げると、彼女は身を乗り出すように見下ろしてきた。


「あらぁ、可愛い子。本当にあなたがこの船の持ち主で、あの屑共を縛り上げたの?」

『諸事情で声が出せないから文字で応えるね。間違いなく、ボクが捉えた。リモート申請ライセンスID240129。フィオガ・クワハウ』

「あらぁ、じゃああなたが申請のあった……ふむ」


 端末を取り出し、こちらとそちらを見比べる。入力情報に誤りはないはずだし、偽りもない。とはいっても、欺瞞情報があったからと言って何か咎められることはない。

 力ある者ならば、教会は受け入れる――らしい。


「確認したわ。いらっしゃい。アテクシはこの教会のマザー・コーエン。あなたに良き狩りが訪れんことを」


 恭しく礼をしてくるけれど、コンゴーの資料で読んだ宗教家というものにはとても遠く思える。

 彼女はさっそく懐から白い筒を取り出すと、火をつけて煙を吐く。タバコというものだ。地球人が発明した嗜好品だったか。宇宙船内では酸素を無駄に消費するものだから、誰も吸っていなかった。


「んじゃさっそく手続きしようか。とはいってもID発行の所要手続きは終わってるから、物理的にカードに印刷して渡して、それで終わり。あとは自由にハンターナイト教会の使いとして、自由に狩りなさい」


 にやりと笑うマザー・コーエン。角ばった顎と鋭い目。何か苦手だ。

 彼女の手が、ボクの頬に伸びてくる。


「でも言葉が話せないなんて。相当怖い目に遭ったのかしら?」

『あなたには、関係ないです』

「あら連れない。困ったことがあったら相談なさい。これでもアテクシ、ここのマザー。迷える子には道を教え、救いを求める者には手を差し伸べる。いつでも待ってるわ」

【胡散臭い宗教家の言葉ですね。気を付けてください、マスター】


 コーエンには聞こえていないはず。そこまで言わなくてもと思うのだけど。


「知りたいことがあるなら、今すぐにでも教えてあげるけど?」

『なら、教えてほしい』

【対価を払えって言ったらぶっ飛ばしていいですよ】

「あら、なぁに? 情報提供は教会の仕事だから、秘匿情報でもなければお金はかからないから安心して」

『……じゃあ、スペースパイレーツの、特に帝国に協力している奴らの情報が欲しい』


 ボクの打った文字に、マザー・コーエンはポカンとしてタバコを落とした。



少しでも気に入っていただけたら幸いです。




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