第三十二話「神にも悪魔にもなれる力」.4
アクシャハラ・リアクターの発生させるフィールドは、その出力が高ければ高いほど、高圧、高密度の攻撃に耐えられる。レイハガナに搭載されているのは、あくまで人間サイズのアーマーガンナー用の大きさのリアクターだ。
この船に搭載されているものは、格が違う。しかも二つ。
『敵艦右舷より急速接近! なんだこの速度!』
『敵艦速度を落としません。このまま突撃する模様!』
『敵予測進路に火砲を集中! 飽和攻撃で動きを鈍らせろ!』
ガイドーの逃げ込んだ艦隊は紡錘陣形をとった状態だった。
つまり、正面への攻撃力は高く突破力もあるが、左右への攻撃能力は正面ほどではない。特に左右どちらかから攻撃を加えると、その反対側の兵力は攻撃を行えず、実質的に相手にする敵の数が半分になる。
もちろん、戦う時間は倍になるが。
『でも、目標への到達時間は半減する』
「センサーに反応! アタシが追いかけていた船が、あの艦隊の中心にあるよ!」
それは、アクシャハラ・リアクターの反応だ。ごく微小で、ガイドーの艦隊では発見できないほど。それでも、本物のリアクターを持つ者にならわかる。
アナトに託した生体融合金属の一部が、発振器となってその位置を教えてくれている。
『敵戦線を食い破る! ルミス、この船を任せた!』
〈わ、わらわか!? あ、アナト、手伝ってくれぬか!〉
「もっちろん!」
ボクに代わって艦長席を譲ったルミスは、困惑しつつ同じように手を乗せる。そうすれば、この船の使い方は大体わかる。
同時に、この船の最大火砲についてもわかるはず。
“次元爆縮砲”――アクハトのエネルギーをさらに圧縮、高出力で放つ星を砕く力。
クワハウが最強の星間国家足りえた要因。神にも悪魔にもなれる力。
そのトリガーとして、まずレイハガナのアクハトが必要になる。
〈フィオガ、この船動かし方はわかったが、どうすればよいのだ!?〉
『ガイドーの船にまっすぐになるように動かし続けて。さすがにアクシャハラ・リアクターでも、あの集中砲火を喰らい続けたら解除されるからね』
〈責任重大なことを急に任せおって! アナトが居らねばまともに動かせもせんぞ!〉
『大丈夫。君ならできるって信じてた。アナトがいるならなおさら問題ないって』
アムリット・エンジンを託された者たち、アルヴァス人。アムリットからアクシャハラへ。クワハウが辿った道を歩む。彼女らにこの船が渡るのは、ごく自然な話だ。
そのために、継承者ではない者たちのもとにあるものを、消し去らなくては。
『ガイドーの船にアクシャハラ・フィールドが展開している。このままと突撃して回避。敵艦の後背に出たら百八十度回頭!』
〈無理を言いおるのぉ!〉
とは言いつつ、彼女はこちらの要求に応えきる。宇宙空間をミサイル以上の速度で航行する船を巧みに操って敵戦艦の間を通り抜け、最も安全な敵の後背へと躍り出る。
『敵艦後方に出現。回頭間に合いません!』
『狼狽えるな、いくら高速戦艦と雖も、こちらを全て攻撃することなどできはしない!』
『ガイドー閣下をお守りするために――』
ボクは今、艦首にいる。刃のような船の先端。
その下にあるバルバス・バウ。そこが展開し、巨大な砲口を展開する。
――砕け散れ。忌まわしい過去とともに!
次元爆縮砲――レイハガナのアクハトを、艦砲サイズまで巨大化させた必殺兵器。その威力は、星一つを飲み込む、惑星掘削兵器。
おおよそ海賊一人に対して使うものではないだろうし、艦隊に使うべきものでもない。
だが、一隻対数百隻の帝国艦隊。
『トリガー展開。アクハト、発射!』
放出したアクハトのエネルギーが、チャージされたバエルのエネルギー傀に接触。それまで安定していた次元をわざと崩壊させ、溢れ出したエネルギーを砲口に乗せて放つ。
その青紫の光は、一瞬にして艦隊の中心部へ到達。
直後、周囲数千キロを飲み込む爆発が発生し、帝国艦隊は壊滅する。
「――ァッ、――ッ」
声は、まだ出ない。
けれど、きっと多くのことが終わったのだと、ボクは確信していた。
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