第三十二話「神にも悪魔にもなれる力」.3
抵抗の偵察隊は、急に加速したスフィナハザークから置いて行かれる。
ダメ押しと言わんばかりに射出されたアンカーが船体を貫通。釣りをするようにシリンダーが高速回転して帝国艦を引っ張り寄せると、そのまま牽引しながら宇宙空間へと舞い上がる。
『なんて推力だ。ホチャーの分析以上か?』
〈これが、二連アクシャハラの力であるか〉
通常の宇宙船は、自身が大気圏を突破するのにギリギリの推力しかない。少なくとも、飛行機というものは、その速度、加速性、旋回性を維持するためには、必要十分以上の資材も燃料も摘んだりしない。
宇宙船は、その状況が少し変わる。隕石や小惑星から物資を回収しつつ移動する必要のある播種船などは、特に推力に余裕がある。貨物船、護衛艦、巡洋艦といった中・小型の船ほど積載量に余裕はあるだろう。
「だからって、大気圏内で船一隻引っ張りながら大気圏突破できるのはやっぱりおかしいって!」
スフィナハザークの分類は、古い言い回しならば超弩級戦艦。
現在の言い回しならば、万能特装戦艦。
『先見偵察艦残り三機の追随を確認。電離層突破と同時にアンカー切断。左舷回頭、時計回りで敵艦隊へ突っ込む』
艦橋を覆う窓の向こう側の赤い光が消える。同時に船体が軽くなる。アンカーが外れて、後方にムルガン級の船体が流れていく。
帝国艦は追撃を仕掛けてくるが、スフィナハザークのフィールドは攻撃を通さない。無理な体勢で大気圏を突破したため機体各所に破損が見られる。仲間の偵察艦は救助に動くであろうから、しばらく追ってはこられない。
『銀河連邦の艦隊は派遣されないみたいだね』
「仕方ないよ。ここはかなり連邦の端も端。元から期待していなかったでしょ?」
『うん、その通りだけど、来てほしかったな』
そうすれば、ボクを裏切ろうとする奴が来てくれるかもしれない。ガイドーと一緒に吹き飛ばせるかと思った。
それが叶わない以上、せめてガイドーだけは。
『ブリッジ遮蔽。CIWS起動。ミサイル発射管全弾装填。全ビーム砲塔照準よし』
「敵艦隊との距離、二・四光秒!」
アナトが敵との距離を読み上げる。ほとんどが自動化され、指揮をするヒトさえいればこの船は動く。トリガーを引くタイミングの指示があれば。
〈フィオガ、敵の火砲が放たれた。こちらに向かって来おるぞ!〉
ルミスの心配する声が響く。
『大丈夫』
僕が撃ち込んだのは、その一言だけ。
直後、艦前方が光に包まれた。
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