第三十二話「神にも悪魔にもなれる力」.2
『アナトたちの姿を映して』
コンソールに思念を伝えれば、傍らに地上を映したディスプレイが現れる。
そこにモノホイールを走らせるアナトと、それに追随するアルヴァス人複数名の姿が映った。スペースパイレーツの地上基地に突撃するアナトも大概だが、それに生身で追随するアルヴァス人の特異性が伺える。
『トラクタービーム照射用意、アナトたちを回収する』
彼女の反応がある場所まで飛ぶと、停車したモノホイールがディスプレイに移る。その場で百八十度回頭。制動をかけつつトラクタービームを照射。彼女を船内へ回収する。
〈フィオガ、敵の船がこちらに向けて誘導弾を放ってきおった!〉
ボクの隣に座るルミスから、再度警告が飛ぶ。
スフィナハザークのメインカメラと視覚をリンクさせると、飛んでくるミサイルを捉える。
『迎撃用CIWS展開。アクシャハラ・フィールド展開領域を随時変更。……迎撃完了だけど、船自体を落とせないか』
敵の船の位地が、ドヘイディア上空にある。ここで撃墜すれば、欠片が都市やその周辺の穀倉地帯に、悪ければ避難中の市民の上に落ちる。
ルミスとの約束もある。アナトは回収できた。
なら、戦いの場所を移す。
『大気圏外まで移動する。全員、再度座席に体を固定して』
〈全員に通達する、席に体を固定せよ。先ほどよりきついぞ!〉
――アナト、こっちへ。
ルミスが他のアルヴァス人たちに伝えている間に、ボクはアナトを呼ぶ。光に包まれた彼女が床から出てくると、そこに席が出現する。
「うわっ! なにこれ、超SF!」
『そりゃかつて銀河を支配した古代文明だからね』
艦内テレポートという未知なる技術に興奮するアナト。いくら星間国家時代といえども、個人テレポートというものは確立していない。宇宙船による恒星間テレポートとは、行おうとしていることが全く別の話だ。
戦車の大砲で拳銃の弾は撃てない。大は小を常に兼ねるわけではないのだ。
『ベルトで体を固定して。いくらアクシャハラ・リアクターの重力軽減効果があると言っても、振り回されたら死んじゃうからね』
「わかってるわよ。フィオガって意外と心配性よね」
〈ならば、その心配を多少自分に向けてくれると、味方は安心するのだがの〉
――そうかな……?
口ごもる――というより言葉に詰まって書くことができない。喋れない時が便利だと思うことはあまりない。投影ディスプレイに空白がしばらく続くと、二人は揃って肩をすくめ、この話題を打ち切った。
「それで、ガイドーのいる辺りにまっすぐ?」
『まっすぐ行く。推力最大、牽制弾発射後艦首上げ舵四十。加速を開始する』
飛んでくる砲撃をアクシャハラ・フィールドで受け止めながら反撃する。敵艦からの攻撃が弱まった時、メインスラスターを全開にする。
敵の中性子ビームを受けながら宇宙の深淵へ向けてスフィナハザークは加速する。
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