第三十二話「神にも悪魔にもなれる力」.1
ほぼ垂直に駆け上がるように、スフィナハザークはドヘネットCの空へ飛び立った。
ただの宇宙船ではなしえない機動性。それを支える重力制御機能。
クワハウの古代の船は、まさしく超文明時代に相応しい性能を持っていた。
〈大気圏内に降下する熱源探知、数は四。帝国ムルガン級高速戦艦……らしいぞ〉
オペレーター席に着くルミスが、目の前に表示された内容を読み上げる。古代戦艦だと言うのに、すでに帝国戦艦の情報がインプットされているらしい。
接続されたホチャーから読み取ったものなのか。それとも封印状態は名ばかり。常に戦乱の時に備えて、地下空間で隠され続けていただけなのか。
――アクシャハラ・フィールド展開。移動中のアナトのもとへ。
掌を伝わって、念じた言葉が機能する。スフィナハザークはボクらが使うGPSデータも取り込み、目指すべき場所を正確に割り出した。
艦橋には大気圏を突破してきた強行偵察部隊と、この艦の距離が示されている。
――アナトを回収して、そのあと迎撃するのに十分な時間だ。
『ホチャー、アナトへ座標送信。合流地点が決定した』
【了解です】
敵の船は早くもこちらを見つけたようだ。
大気圏内で三百メートル以上の巨体がアクロバティック飛行していれば、嫌でも目に付く。加えてあちらはアクシャハラ・リアクターの反応を探知できる。光学、熱源、主たるレーダーを欺瞞するとは言え、発見されるのは時間の問題だった。
大気圏内での敵艦との有視界戦闘距離は〇・一光秒以上になることはない。つまり、光速より幾分遅い中性子ビームであろうと、砲火を放った直後に命中している。
〈敵艦速度上昇。こちらに狙いを定めた模様! まもなく撃ってくるぞ〉
ルミスから警告が飛んでくる。だが、アクシャハラ・フィールドの防御力は、レイハガナはもちろん、タウホチャー号とも比較にならない。
「フィオガ! その船動かせたんだね! すっごい、おっきぃ!」
『アナト、無事だよね』
「もちろん。ガイドーがシャトルに乗って宇宙に上がるのは見たし、どの船に乗り込んだかはトレースしてるよ。今なら追いつける」
彼女は、あえて逃げるガイドーたちに手を出さなかった。
あくまで、ボクに奴を倒させてくれるんだ。
彼女のマスクに表示されるであろう文章に、ほんのわずかに迷う。
ただのありがとうでは、感謝の想いが伝わりそうになかったから。
『トラクタービームを発射するから、それに乗って船に来て。あいつを追いかけて、仕留める』
「わかった。でもガイドーの乗ったシャトル、反応が艦隊の中心部まで進んでいたの。敵の防御陣は、かなり厚いわよ」
『大丈夫。艦橋まで来て。あいつらの防御を突破する光景を、特等席で見せるから』
それができるだけの力が、この船にはある。
現存する兵器で言えば、この戦艦は銀河最強だ。
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