第三十一話「艦隊出撃」.2
〈ホチャー殿か。いかがされた?〉
【ルミスさん、フィオガは?】
『起きた。どうしたの?』
ホチャーの問いかけに指を走らせる。ディスプレイを展開すると、彼女が送って来た映像が流れる。
【追跡していたガイドーと一部スペースパイレーツが、脱出船に乗り込んで大気圏外へ向かっています。撃墜は失敗しました。まもなく軌道上艦隊とランデブーするころです】
『無傷の艦隊が、降りてくるか』
【今回の襲撃計画に合わせてハンターナイト教会と連邦議会には援軍要請を、マスターコンゴーの権限を使ってしましたが、未だに到着する見込みはありません。予定では、襲撃当日に強襲をかけるはずだったのですが】
『仕方がないさ。クワハウ特権も、いつだって有効ってわけじゃない』
体を起こすボクを、ルミスが支えてくれる。二人でディスプレイを覗き込めば、大気圏から脱出していくシャトルが遠くに消えていった。
駐在艦隊が降りてくれば、艦砲射撃でこちらを焼き払うことも、そこに乗船する装甲擲弾兵を投入することも可能だ。
『けど、帝国戦艦は地上運用可能なのか?』
【現在の連邦、共和国双方の宇宙艦艇は地上への使用は非推奨とされていますが、スペック上不可能ではありません。特に軌道上艦隊は強襲揚陸艦も持っていますから、それは地上へ降りてくる前提で設計されている船になります】
つまり、相手がご丁寧に地上へとどまり続けてくれるわけではない。
『ドヘイディアの市民は?』
【現在、ドヘイディア行政府に強制避難勧告を発令してもらっていますので、一般市民は既定のルートに沿って、各自都市部から脱出しているはずです。推定でも都市全体の住人が脱出するには、三日は有すると】
『なら、衛星軌道上から艦砲射撃はしてこないだろう。少なくとも、この都市には』
ガイドーはスペースパイレーツだけど、艦隊は帝国だ。帝国軍が連邦の民主主義者が誇張する血も涙もない冷徹な兵士たちの集まりならするだろうけど、帝国だって人間の国だ。
そんな無謀なことはするはずがない。
『ここで使える艦艇は、何隻あるかわかる?』
【ドヘイディア都市内には駐留艦はありません。ここから一番近い軍港でも、修理中の艦艇が二隻あるだけです】
『タウホチャー号一機だけで迎え撃つのは、あまりにも無謀すぎるか』
【そもそも私の体は輸送船ですからね】
アルヴァス人は必要以上の科学技術を、それこそ移動手段など自動車すら持たない。むろん、艦隊を迎撃するための武装などない。
〈では、地下のあれを使うしかあるまい〉
地下のあれ――古の箱舟。名前さえも変わらない、クワハウの高速戦艦だ。
ボクたちは、そろって自分たちの足元へ視線を向けた。
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