第三十話「地上戦集結」.3
アクシャハラ・リアクター研究所の警備は、確かに厳重だった。
だが、アルヴァス人たちの能力はそれを上回る。アーマーガンナーとも同等に渡り合い、その装甲を貫く。
アルヴァス人たちの使うアムリット・エンジンのエネルギーは、アンブロス・ジェネレーターを凌駕し、攻撃、防御双方に転換可能だ。
アナトは、そんな仲間の武器を、自分の手の中にある武器を身ながら呟く。
「フィオガのアクシャハラ・リアクターと比べても、やっぱりオーバーテクノロジー感あるわよね」
〈だが、これはアクシャハラの力とは違い、鍵となる『黄金の水』には限界がある。これは非常に繊細な作業で得られるものなのだ。帝国の奴らにこれ以上、我らの領地を荒らされたくはない〉
アルヴァス人の一人が応える。彼は、確かルミスの部族の者ではない。若干肌が日焼けしている。もっと南のほう、上空からの観察では乾燥地帯がある。そこに住まう部族だろうか。
彼らもまた、アムリット・エンジンを持ち、その強靭な弓と剣でスペースパイレーツの、帝国軍の護衛部隊をなぎ倒す。
「本当に良かったの? あなたたちは決して、帝国と戦わなくちゃいけないわけじゃないのに」
〈森の同胞たちがどうかは知らぬが、我ら熱き地の民は、そうでもない〉
青年アルヴァス人の言葉に、ルミスは首を傾げた。
〈森の民は、自ら施したアムリット・エンジンによる保護結界によって守られている。だが、我ら熱き地の民はそうではない。降り注ぐ日差しと、巻き起こる砂嵐の中、砂の底に眠るクワハウの遺産を求める帝国の兵士たちと、日夜闘争を繰り返す。下手に艦砲射撃で全て焼き尽くすわけにもいかぬ故、地上部隊との白兵戦よ〉
資源を巡る戦い。戦争が起きる最大の要因は、食料と資源だ。国民感情や宗教だけで戦争は置きづらい。何より人が生きるための物資が足りなくなったとき、奪いに走るから。
そして、帝国とアルヴァス人は、その内の資源を巡って争っていた。
〈我らにとって、砂の下の資源などさほど価値はない。だがクワハウの遺産は別だ〉
「砂の下には、鉄鉱石とか、化石燃料も多いって聞くけど……それだったら別の星で取ればいいだけだものね」
〈我らにとってクワハウの遺産は、先祖の誇りと魂。そして、遺跡の供給する水は、我らがかの地で生きる糧。帝国の奴らに踏みにじらせはせん〉
それは、後にわかることなのだが。クワハウの遺跡は、単なる遺跡、遺物だけではない。
遺跡から発生する水は、アムリット・エンジンの燃料を為すアムリタ、それを生成する現地生物ザハクを育てるために必要不可欠なものだ。
人間が呑んでも高濃度の栄養素を含み、砂漠のアルヴァスたちが少量の水と食料だけで生活できるのは、この遺跡の水のおかげであった。
生命線たる遺跡の水を脅かす帝国を、砂漠のアルヴァス人が許すわけはなかった。
「でも、ここでアクシャハラ・リアクターの研究を奪っちゃったら、今度はあなたたちのアムリット・エンジンを狙ってくるんじゃ?」
〈その時は、返り討ちにしてくれよう〉
やはり、同じアルヴァス人であっても、森と砂漠、北と南では、考え方に多少の違いが出てくるのだった。
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