第三十話「地上戦集結」.2
「さぁな。理由なんざ俺は知らねぇさ。だがそいつを促した奴なら、知ってるぜ」
動けない状態だというのに、ずいぶんと余裕が見える。その視線の動きを追っていくと、ボクではないなにかを、上空に見ている。
「――ッッ!」
――時間稼ぎか。
「おせぇよ。お前ら」
「ボス!」
アーマーガンナーが突っ込んできた。今まではこちらの戦闘を邪魔しない、巻き込まれないために離れていた機体たちだが、周りのアルヴァス人たちの包囲を突き破ってこちらにまで流れ込んできた。
地面にばらまかれる弾丸、アンブロス・ジェネレーターを防御形態にして受け止める。レイハガナはそのままでも問題ない。量子変換して格納すれば、触れることもできない。
「逃げますよ。動けますか?」
「無理だ。ゆっくり運べよな。あ、そこ、まずい……」
ガイドーの声が、銃弾の雨の向こうからする。
部下たちの運び去る姿を、黙って見過ごすしかなかった。
「運びます。行きますよ」
「ああ……ボウズ、また会おうぜ」
ガイドーの声がした。また、あの男が目の前から消える。
捕らえられず、奪われたものを奪い返せず、ただ見送るだけ。
その時、ボクの中でなにかが動いた。
「ガイドォォォッッ!!」
声が、出た。
「いい声出すじゃねぇか。沈黙の狩人さんよぉ!」
攻撃がやんだ。アンブロス・ジェネレーターのシールドの向こうに、部下に支えられながらも経つガイドーの姿があった。
アクハト、ガイドー、二つの言葉を発するだけが切れた喉から血が出てくる。十年ぶりに使った喉は震えながら、わずかな呼吸を繰り返す。肩を怒らせ、左手の刃を向ける。
――つ、ぎ、は、に、が、さ、な、い。
声が出なくても、言葉を口にすることはできる。
たとえ伝わらなくても、にやけた奴の顔に誓うことはできる。
どれだけの時間が掛かろうと、たとえ銀河の果てまでも。
「次に会うときは、負けねぇぞ」
『ボクが、お前を倒す』
ガイドーの目つきが変わる。うっとうしい羽虫を見る目ではない。ボクとの再会を楽しむような、何か、猟奇的な眼だ。
「名前を答えろ、沈黙の狩人!」
その呼びかけに、全速力で指を走らせる。
『フィオガ・クワハウ。アクシャハラの後継者だ』
「覚えておくぜ。フィオガ」
直後、スモークグレネードが放出され、視界が塞がれる。敵の姿は、騒音の向こう側に消えていった。
沸騰したような血は冷えて、高ぶっていた闘争本能も平穏を取り戻す。
周りの音が遠退いて、体の力が抜けていく。
〈フィオガ、大丈夫か〉
「――、――ッ」
〈無理に喋らんでよい。ようやった。宇宙海賊共の精鋭は、すでに戦場を離脱しておる。このビルは、我らアルヴァスが制圧した〉
崩れかけた体を支えてくれたのは、ルミスだった。ドヘネックから降りて、肩を支えてくれる。
〈済まぬ。奴らの鎧兵を抑え込むことが出来なかった。そなたのほうへ逃がした〉
『うん』『わか』『きにしない』
指から力が抜ける。
〈お、おいフィオガ。だからと言って気を抜く……寝るでない!〉
意識が、そこでプツリと途切れた。
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