第二十九話「決死の一撃を」.3
〈帝国人は、どうも悪口が豊富なようだ〉
〈ああ。他人を蔑むことを恥じる文化はないのだろうか〉
〈仕方がないだろう。クワハウの恩恵を受けてこなかった者たちだ。未熟な文化には目を瞑ろう〉
「うーん、このナチュラル煽り、聞こえてなくてよかった」
翻訳した内容を伝えたところ、クワハウ人の恩恵を受けてきた影響か、自然と自分たちは文化的に成熟していると考えている。
他種族にとってありがたいのは、彼らアルヴァス人がクワハウ人の自然と調和した生活を重んじる風潮を受け継ぎ、他種族には寛容を是とする民族性があることだ。
少なくとも、帝国人を未開人とあしざまにする様子はない。
ただ――。
〈ただし、口は塞がせてもらう〉
怒るときは怒る。
〈アムリット・エンジン出力増加。思念伝達、反射角を定める〉
〈私が右をやる。それぞれターゲットを確認しろ〉
自然と調和した生活は、決して非文明的生活を意味するものではない。自然を残し、自然とともに生き、高度な文明を維持する。最も困難な生活様式は、超高度エネルギー技術によって成り立つものだ。
〈一斉攻撃!〉
七本の矢が、通路の奥へ向けて離れた。それは全て通路の壁に向かっていき、普通なら命中するとは思えない。
だが、その表面にはアムリット・エンジンからもたらされたエネルギーが纏われており、反射角の内通路の壁に命中する瞬間、自ら方向を変える推進力となる。
つまり――この矢は跳弾する。
「ぐはっ!」
「ば、バカな……こんな、原始的な……」
「ぐ……だが、致命傷ではない。矢の一本くらい……」
「残念。あなた以外全員戦闘不能よ」
震える体を起こそうとする警備員だが、その手に握った銃を構える余裕はない。
アルヴァス人たちに担がれて、その指を認証装置へ当てた。
「無駄だ。ここから先はガイドー様や、主任レベルの研究員でなければコードを持っていない。ここを開けることは不可能だ」
「うん、それくらいのセキュリティレベルはまぁ想定内だよね。タウホチャー号にデータを繋いで、アクシャハラ・リアクターの二次元世界干渉演算を開始。三分でセキュリティを突破するから、それまで防衛を!」
〈あいわかった〉
〈クワハウの光、取り戻してくれ〉
以前、ヴァーグスの遺跡でホチャーが言っていた通り。アクシャハラ・リアクターと接続したタウホチャー号のメインコンピュータのハッキング能力は格段に向上していた。
クワハウの残した遺産。その特異性を改めてアナトは認識した。
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