第二十九話「決死の一撃を」.2
フィオガとガイドーが殴り合っているのと同時刻、アクシャハラ・リアクター研究所に突入したアナトは、護衛として付いてきてくれたアルヴァス人たちとともに研究所内を進んでいた。
一般の研究員たちも多く、警備兵にはスペースパイレーツらしき恰好のものも混じっている。だが、それらはアルヴァスの戦士たちの敵ではない。
「次の入り口を右にいって、その先の階段を下った先……ホチャーが事前に調べてくれた通り。この先がリアクターの研究所の深部ね」
〈クワハウの隣人よ。我々が先行する〉
「あ、ありがとう。ごめんね、アタシあんまり強くなくて」
力自慢の彼女でも、人間の上位互換というべき者たちの前では霞んでしまう。アムリット・エンジンによる恩恵だけではない。クワハウ人もそのようだが、人間よりもはるかに身体能力は優れている。
〈伏せろ!〉
彼女の体が地面に倒れる。その上を鋼の弾丸が通り抜けた。アクシャハラ・フィールド発生装置を持っているとは言え、さすがに生身の状態で弾丸をそう何発も撃たれたくない。
直後、数回の弦音とともに、人が倒れる音がする。
「み、みんな大丈夫?」
〈問題はない。こちらに負傷者はいない。それより、クワハウの光はどこに?〉
クワハウの光――つまりアクシャハラ・リアクターのことだ。アナトはマップを見直すと、今倒れた兵士たちの奥に扉があることがわかった。
あっち、と指差したほうへ、アルヴァスの戦士たちが先行する。
自動で扉が開くと、すぐさま攻撃が飛んでくる。ちらりと見れば、バリケードが築かれ、奥の扉が強固なロックで覆われていた。
「ここで間違いないけど、時間がかかりそう」
「森の蛮族どもが、今まで帝国の寛容さに甘えてきておきながらこのような防御に打って出るとは、恥を知れ! 未開で野蛮な、帝国の根を齧って生きるシロアリどもが、帝国の未来を担うこの場所に土足で踏み入れたその報い、貴様らの森を焼き畑にして、全住民を農奴に従事させてこそ償えると知れ!」
扉の奥から聞こえてくる声に、アルヴァス人の何人かは首を傾げた。どうやら、彼らは帝国標準語を知らないらしい。
アナトはヴァーグスでの生活で使われる連邦標準語、ヴァーグス特有方言、さらに一部商人との取引のために帝国標準語を日常会話レベルで使うことはできる。
その中でも、特に罵倒に関するボキャブラリーは、あの混沌とした惑星ではよく学んできた。
「えっと……伝えたほうがいい?」
加えて今回は、ホチャーの通訳機能も使っていて、知らない単語があっても大体ニュアンスは伝わってきた。
こくりと肯いたアルヴァス人、その周りを一瞥してから、なるべく抑揚のない口調で伝えた。
「ということなんですけど……」
伝えられた言葉に、アルヴァス人たちは肩をすくめた。
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