第四話「光の防具」.1
墓のない墓標。
宇宙海賊に襲われた船舶の残骸がある場所は、そう呼ばれる。フィオガの両親が乗っていた船舶は、今や残骸もなく、ただ静寂が支配するだけの座標でしかない。
そこに、赤色の熱線が通り過ぎる。
「敵機接近! 数は一、速すぎて当たらねぇ!」
「対空防御、全砲門開け! 撃ち落としてやれ!」
数秒前に送った降伏勧告が気に入らなかったのか、こちらの動きについてこられていないのに、傍受した船内会話は好戦的だった。
『今すぐ全員ハンターナイト教会に出頭するか、撃墜されるか選べ』
きちんと銀河連邦標準語で言ったはずなのに、通じていないらしい。やはり帝国に関わっている者たちは、帝国標準語でないと読めないのだろうか。
アンブロス・ジェネレーターを用いる機体は、稼働するにも火器を使用するにも、このジェネレーターからエネルギーを供給される。その色は赤。この銀河で最も流通し、安価で生産性も高い、標準的仕様だった。
『ホチャー、機体の制御をお願い。こっちが甲板に出て、迎撃する』
【了解。無茶をしないでください】
『うん、わかってる』
今、ボクの体は生身ではない。呼吸器をつけ、ガントレットを嵌めているのは変わらない。でも、そのさらに外回りを包み込む装甲がある。
アクシャハラ・リアクターが生成するエネルギーを物質化した、生体融合金属。体表より二回りほど大きいアーマーは、手足を伸ばしていては装着できない。
腕を前で交差し、膝を曲げ、抱え込む。
――レイハガナ、起動!
【レイハガナ、起動を確認。お気をつけて】
クワハウの古い言葉で、「光の防具」を意味するらしい。全長二メートル、重量七十五キロ、生体融合金属は衝撃吸収、熱吸収、柔軟性に優れ、従来のバトルアーマーより非常に軽く、機動性が高い。
本来はより大柄なクワハウ人が使うことを想定していた形状だ。本来なら彼らの骨格と筋肉が詰まっているはずの中身は、骨格フレームと神経伝達コードが詰まっている。
本来なら六本指の両腕も、地球人用に五本指に改造されていた。
【マスター。武装を展開してください。射撃アシストは――】
『不要。船の操縦に集中して。この船は、まだ非武装だからね』
民間船舶の武装化には物理ライセンスと認可工場での改造が必要になる。銀河連邦の設立と発展に貢献してきたクワハウ人でも、そのあたりのルールは破れない。
代わりに、個人保有武装に関しては、オーバーテクノロジーでも管理を許されている。
「近づけさせるな! ……なんだ、甲板に何か出てきやがったぞ?」
「黒いアーマーガンナー? 護衛の傭兵か!」
非武装船が、こうした無法者に対抗するには、武力を持つ者を雇えばいい。その最たる例が教会の派遣する狩猟騎士、もしくは傭兵だ。
宇宙船、携行武器、様々な武器を使うハンターナイトたちの中でも、ひときわ強力なのが、アーマーガンナーというパワードスーツを身にまとう者たちだ。
防御力、攻撃力、機動力。どれをとってもヒト型生命体ではなしえないものを、機械的アシストによって実現する。レイハガナも、その一種ではある。
「アーマーガンナーがなんだ! 多少船が速いからって、それでこっちを落とせると思うな!」
敵戦の音声がよく聞こえる。
血気盛んというのだろう。敵の船が、ボクらの船を追って近づいてくる。
『《アクハト》起動、アクシャハラ・リアクター正常稼働、問題なし』
しかし、このアーマーガンナーが最強の兵器であるわけではない。ヒト型の制約。火力では設置兵器、汎用性では携行兵器に劣る。対人には過剰でも対船には貧弱な装甲、船舶や戦闘機には劣る機動力。
臨機応変な対応が可能なオールマイティー――と言えば聞こえはいいが、実際はほぼ器用貧乏に膝まで浸かっている。
――それも、従来品ならって話。
ここにあるのは、自ら幕を引いた古代文明の生き残りが残した、究極兵器の一つである。
クワハウ製アーマードガンナー《レイハガナ》は、内臓武装の火力だけで連邦軍の主力戦艦の主砲をしのぐ。
その頭部。クマ型のクワハウ人に合わせて鋭く伸びているその突起形状の上部には、カメラと並列に並び、首の稼働で自由に射角を変えられる砲口が存在した。
生体融合金属によって構成されたそれに、アクシャハラ・リアクターのエネルギーが注ぎ込まれる。
「――ッッ!!」
光の奔流が流れた。
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